不動産エージェント~知識をつける~『マンション管理から設備仕様』

問題だらけのマンション管理から設備仕様まで、 建築士が知っておきたいこと

中古マンション市場ではリノベーションがブームになっています。いや、もうすっかり一般的になったと言えるのかもしれません。

あわせて分譲や賃貸を問わずマンションの老朽化が全国で問題になっており、大規模修繕等の改修設計に乗り出す建築士も増えています。新築を中心に仕事をしている建築士の皆さんも、中古マンションのリノベーションや大規模修繕の相談を受けることも多くなったのではないでしょうか。これからもっと多くなるのは間違いありません。

しかし、住宅業界には「マンションは管理を買え」という格言があるように、管理を知らずしてマンションの建築・設計は語れません。一般社団法人日本マンションサポート協会専務理事の川島崇浩氏に話を聞きました。

マンション管理を知らないことで起きるトラブル

マンションのリノベーションや大規模修繕に進出する建築士は増加しています。ここ数年で新たに始めた方が多い分だけ、トラブルも増えています。

よくあるトラブルとその防ぎ方について、マンション管理の専門家として紹介したいと思います。

まず中古の分譲マンションに携わるなら、管理規約や長期修繕計画などの情報を収集することは、お客様と商談を進める上でも非常に重要です。

そこで「管理に関わる重要事項調査報告書」という便利なものがあります。

これには次のような情報が網羅されています。

1、管理体制関係・・・管理組合の名称、役員数、役員の選任方法、管理規約の有無、共用部分に付保している損害保険、使用細則等のルールなど

2、共用部分関係・・・建築年次、駐車場関係(区画数、使用資格、空き区画、空き区画補充方法、使用料など)など

3、管理費等関係・・・管理費・修繕積立金の額、各種使用料(駐輪場・専用庭・ルーフバルコニー・トランクルームなど)、戸別水道使用量、冷暖房料、給湯料またそれらの滞納額など

4、管理組合収支関係・・・管理組合の収支及び予算の状況、管理費等滞納・借入の状況、管理費等の変更予定など

5、専有部分使用規制関係・・・専有部分の用途、使用規制、マンション全体の契約等による規制など

6、大規模修繕計画関係・・・長期修繕計画の有無、共用部分の修繕の実施状況、大規模修繕工事の実施予定

7、建物の建築及び維持保全の状況に関する書類保存の状況・・・・確認申請書及び添付図書並びに確認済証、検査済証、住宅性能評価書、新耐震基準等に適合していることを証する書類などの有無

8、アスベスト使用調査の内容

9、耐震診断の内容

10、管理形態・・・マンション管理業者の情報

11、管理事務所関係・・・管理員勤務日、勤務時間、電話番号、管理会社担当者連絡先など

12、コミュニティ関係・・・自治会・町内会、サークル・イベント活動

13、備考・・・テレビ共聴、インターネット環境、共用部分における重大事故・事件、鍵預かりサービス、設計図書保管場所など

これらの情報をお客様から一つ一つ収集するのは大変ですが、「管理に関わる重要事項調査報告書」を活用できれば、お客様の手を度々煩わせることなく、情報収集が可能になります。

リノベーション依頼者も管理会社に書類を請求できる

宅地建物取引業者は、この報告書と合わせて管理規約や長期修繕計画書、修繕履歴、新築時の販売パンフレットなどを入手しています。

建築士の中にも、中古マンションのリノベーションの依頼を宅地建物取引業者から受けた時は、これらの情報を入手している方もいるかもしれません。

「宅地建物取引業者がマンションの媒介等の際に請求できる書類ではないのか?」といった疑問があるかもしれませんが、売主やリノベーションの依頼者となり得るお客様(区分所有者)も、この書類の提出をマンション管理会社に請求することができます。

このことは、国土交通省がマンションの管理規約の見本として公表している「マンション標準管理規約」では、次のように規定されています。

→国土交通省公表「マンション標準管理規約第64条第3項」抜粋

理事長は、・・・閲覧の対象とされる管理組合の財務・管理に関する情報については、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求に基づき、当該請求をした者が求める情報を記入した書面を交付することができる。この場合において、理事長は、交付の相手方にその費用を負担させることができる。

また、国土交通省が、管理組合とマンション管理会社の間で管理委託契約を締結する際の指針として公表している「マンション標準管理委託契約書」では、次のように規定されています。

→国土交通省公表「マンション標準管理委託契約書第14条(管理規約の提供等)」抜粋

乙(マンション管理会社)は、宅地建物取引業者が、甲(管理組合)の組合員から、当該組合員が所有する専有部分の売却等の依頼を受け、その媒介等の業務のために、理由を付した書面又は電磁的方法により管理規約の提供及び別表第5※に掲げる事項の開示を求めてきたときは、甲に代わって、当該宅地建物取引業者に対し、管理規約の写しを提供し、及び別表第5に掲げる事項について書面をもって、又は電磁的方法により開示するものとする。

甲の組合員が、当該組合員が所有する専有部分の売却等を目的とする情報収集のためにこれらの提供等を求めてきたときも、同様とする。2乙は、前項の業務に要する費用を管理規約の提供を行う相手方から受領することができるものとする。

※別表5は主に前述の13項目の内容

これらは、「管理組合の財務・管理に関する情報を、宅地建物取引業者又は売主たる組合員を通じて専有部分の購入等を予定する者に提供・開示することは、当該購入予定者等の利益の保護等に資するとともに、マンション内におけるトラブルの未然防止、組合運営の円滑化、マンションの資産価値の向上等の観点からも有意義であることを踏まえて、提供・開示する範囲等について定めた規定である」とされています。

重要事項調査報告書から得られるメリット

リノベーションに関係して発生するトラブルには様々なものがありますが、「管理に関わる重要事項調査報告書」があれば、専有部分内工事の制限の有無があらかじめ確認できるのはもちろんですが、長期修繕計画や修繕履歴などで、給排水設備の更新状況や時期が分かることもメリットです。

たとえば、リノベーション直後に共用配管の更新のために将来内装をいじる可能性があるといったことも予見しながら、お客様と打ち合わせができます。また、耐震診断の結果なども踏まえて、建替えの可能性なども予見できます。

理事会の開催頻度がわかれば、工事の申請の直前に理事会が終わってしまい、承認をもらうのに手間取るということもなくなります。工事において、管理員とのやり取りだけでトラブルが発生することは少なくないですが、管理会社の担当者やその連絡先も確認できるなど、この他にも複数のメリットがあります。

リノベーションが行われるタイミングは、所有者の変更等を伴っているケースが多いことからも、建築士の方には、お客様に「管理に関わる重要事項調査報告書」の入手を提案し、マンション内におけるトラブルを未然に防止しながら、設計や施工を進めていただければと思います。

建築・設計とマンション管理との壁

そもそも、これまで建築・設計とマンション管理との間には、大きな壁がありました。

これは、マンションデベロッパーにおいて、作ったら作りっぱなし、売ったら、売りっぱなしという新築マンション一辺倒だった時代の悪しき習慣が影響しているのだと思います。

実はマンション管理の側からみると、「この設計を少し改善してくれるだけで、ずいぶんとメンテナンスが簡単になるのに」という箇所がマンションにはたくさんあります。しかし前述の通り、管理と建築・設計との間には壁があるために、管理の現場の声が適切にフィードバックされないまま、延々と管理しづらい、使いづらいままのマンションが量産されてきたと思います。極一部のデベロッパーでは改善されつつありますが、やはりまだ一部の会社だけです。

現場の声を聞かないマンション業界

マンションデベロッパーの中には、建物の引き渡し後に発覚した不具合について、アフターサービス基準はあるものの「お断り」姿勢の企業が少なくありません。アフターサービスを担当する優秀な社員の基準は、過失があるかないかを度外視して、お客様を穏便に納得させることになっていたことが要因です。

手直し工事をすれば、会社にとって追加の費用が発生してしまうために、何とか話をつけて修繕を断るのです。

アフターサービスを管理会社が担っていた時期などは、もしお客様に納得してもらえずに親会社のマンションデベロッパーに相談すると「そんなの管理会社で断るのが仕事だろ!」などと、怒られたりしていたものです(笑)。

これでは、一向に良い方向に改善されませんね。

設計・施工上の配慮不足の具体例

マンションで発生する不具合の中には、アフターサービス基準書には記載のない不具合があります。不具合とは言い切れないために「設計・施工上の配慮不足」などといわれたりするものです。

最近、マンションでもエントランス周辺に、美しいパネルの裏側にLED照明を配置した光壁というものが設置されているのを見かけます。

意匠性は高いのですが、パネルの外周をシーリングで固定してしまっていると管理上困りものです。

「LED はかなり保つ」、「めったに交換が必要ではない」と思われていますが、LEDの中には常灯させていると、耐用時間が半分くらいまで減ってしまうものもあり、新築から3年も持たずに球切れを起こした事例もあります。

こうなるとどうなるか。LEDを交換するためだけに、シーリングを切断してやり替えるというちょっとした大工事が必要になります。

一方で管理組合では、そのような工事の予算も取っていなければ、長期修繕計画書にも計上されていない。もう少し球切れのことを考えて、管球交換しやすいように設計・施工をしてくれていればと思える事例ですね。

先日は、1階の共用廊下に設置されているマンホールの化粧蓋が開かなくなってしまっているという築10年ほどのマンションがありました。

地下ピットに設置されている排水ポンプの点検用のマンホールですが、管理会社からは数十万円の交換費用の見積もりが提出され、理事会は困っていました。

マンションの築年数は関係ありません。実はこれも昔から発生している不具合で、一向に改善がみられません。改良された商品は出ているものの、採用されているケースはまだまだ少ないと言えます。

この他にも、必要な箇所への点検口の未設置や、配管の掃除口の未設置、点検用のタラップの未設置などは日常茶飯事で起こっています。

こうした事例を目の当たりにするたびに、管理に従事する方と、建築士の方のコミュニケーションの必要性を痛感します。建築した後の建物を管理する現場で起きている問題を、建築士の方々に知っていただくことは、次の新築や改修工事がよりよいものになると思います。

管理仕様に建築・設計の目線が足りない

マンション管理に携わっていると、実は意外と点検や清掃をすべき箇所が管理仕様から漏れているということがあります。

よくあるのが、各所に設置されている給排気口の清掃、エアコンの清掃や点検、ピットに設置されている排水ポンプの清掃や点検です。細かいところでは、最近ゲストルームのあるマンションが増えてきましたが、浴室に設置されている浴室乾燥機の清掃や点検が実施されておらずカバーを開けると埃だらけ・・・。

カフェのあるマンションの厨房設備なども手つかずのことが多いです。

なぜこんなことが起きるのかといえば、一つには建物を作る際に、メンテナンスのことを考えずに新しい製品やサービスを導入しがちなこと、もう一つは、マンションデベロッパーが売りやすいレベルで管理費を設定し、管理会社がそれに合わせて管理仕様を決めていること。

「この管理費に合わせて、管理仕様を作れ」って言われてるんですよね。そうするとどうしても削らざるを得ない部分が出てくる。結局、メンテナンスをしないために寿命が短くなるなどした負担はお客様に転嫁されてしまっているのが現状です。

建築士の皆さんにも、建てた後の管理仕様にも目を向けていただいて、お客様に将来負担をかけないような設計・施工を心掛けていただけるとよいと思います。

建築・設計と管理の融和が必要不可欠な時代

その為には、マンション管理に携わる人と建築・設計に携わる人たちが協力しあって、もっと建物の管理やメンテナンスについても知識を深めていく必要があると思います。

そのためには、日常的に「こんなことがあったのだけど、どう思う?」などと気軽に情報交換できる関係性を築いていく必要があると思います。

またこれからはマンションの終活についても知見を広めていかなければなりません。

「このマンションはもう直していても、費用がかかりすぎてダメです。建て直した方が賢明です」といった判断も出てくる場面が増えてくることでしょう。その際に、管理の限界をお客様に説く必要が出てきます。そのために建築・設計と管理に携わる専門家が協力しなければならない場面がすでに出てきています。今後より活発な情報交換が必要になってくることは間違いありません。






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インタビュー

不動産エージェント 藤木 賀子

スタイルオブ東京(株)代表。
25歳で建築業界に入り、住宅・店舗・事務所・外構の営業・設計から施工まですべてを経験。
世界の建築に興味があり、アジア・北米を中心に建築を見て回り、いい家を追求すべく世界の家を研究。結果、いい家とは『お客様の価値観』にあることに気づき、自分が作るよりお客様の代理人としてお客様の想いを可視化・具現化・実現化することが出来る不動産プロデュースの道に。
これまでの経験とスキルを、不動産エージェントとして活躍したい人に向けて発信中。






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