不動産エージェント~知識をつける~『売ってはいけない不動産』

絶対に売ってはいけない不動産の話

今回話を聞いたのは建物検査のプロフェッショナル(インスペクター)で、損害保険鑑定士でもある大久保新さん。インスペクターとして約2000件の物件を検査してきた経験から、物件のチェックのポイントをアドバイスしてもらいます。

不動産エージェントは不動産仲介と違い、顧客のライフスタイルの変化に伴って住まいの住み替え、売買といった相談に対応します。そのため「購入してから改修にとんでもない金額がかかることが分かった……」といった物件を勧めたら大変です。

しかし工業製品でない戸建てやマンションには、画一的な判断基準がありません。だからこそ、正しく判断できる建物知識をもつエージェントが求められます。大久保さんの知見にあやかり、「売ってはいけない不動産」を判断する見極め力を身につけましょう。

大久保さんの仕事
(建物調査のプロフェッショナル……インスペクション2000件超)

見極めのポイントをつかむ!

まなべる不動産編集長の藤木です。
今回は建物調査のプロ(損害保険鑑定、インスペクションのプロフェッショナル)の大久保新さんに話を聞きます!

大久保新と申します。いま紹介していただいた通り、建物を調べる仕事を20年近くやっております。もともと、ご存じの方も多いかもしれませんがさくら事務所というところでホームインスペクションの責任者を約12年やっております。

今回、このまなべる不動産が不動産のサロンを開くにあたって、大久保さんにもサロンのメンバーになってもらう予定です。サロンは「不動産仲介」ではなく「不動産エージェントが不動産を紹介する」モデルを広めることを目的にするということで、変な物件を紹介できないじゃないですか。
そこでエージェントには、これだけは売っちゃいけないというか、要は建築の知識が必要になる場面も出てくるわけです。
大久保さんは建築の知識を果てしなくお持ちなので、見極めのポイントをいくつか教わりたいです。キャッチーなテーマをつけるなら「売ってはいけない不動産」ということがテーマになるのかな。

「売ってはいけない不動産」ですか、そうですね。そういう見極めのポイントはいくつかあります。
お客様に情報を提供する物件を、エージェント自身も見ると思うんですけど、まず「物を壊さないで」外から見ても、この物件まずいな、と簡単に判断できるところがあります。

それはどんなところですか?

例えば、外観にひびが入っていても、これは「やばいひび」なのか、そうじゃないのか。
あるいは、外壁にシミがあるかなどは判断のポイントになります。

それは、「直せるかどうか」を基準に見るということですか?

はい。直せるかどうかをそういった初期の段階でチェックする。直せなければ当然「売ってはいけない」ですよね。直せるとしたら、費用はいくらくらいかかるかどうか。それが分かるようになると、アドバイスもしやすくなりますね。

マンションの場合はどうですか?

マンションの場合は戸建てとは違って、例えばタワマンを一部屋買うにあたって、全棟チェックするわけにはいかないので、管理の状態などにチェックするポイントがあります。

でもマンションもひびとかありますよね?

もちろんそうした外観からの情報でも見ることができます。ひびを見る視覚的なポイントがあるので、それを教えます。

補修されているものはどうですか? タイルとか。あれってマイナスですか?

検査の視点でいえば、補修してあることは良いんですよ。きちんと「チェックしている」ということなので。
問題は、組合が建物に興味がなくて、ひびなどが放置されている物件です。

そういうのは簡単にチェックリストみたいなものでチェックできます?

できます。エージェントが簡単に判断できるようなものを作ることはできます。
フローにして、ひび割れがあった場合はこうして判断して、これは問題があります、といったものをつくることができますね。

それで問題が深刻そうだな、と判断される場合はどうしていますか? 管理と修繕費の関係もありますよね。

マンションでは、実際にはその場合はこちらがやれることはほとんどありません。「売ってはいけない」です。建築的な部分でより精密に判断するのは、戸建ての方が利点がありますね。マンションの場合だと、一棟まるまる検査することは難しく、できないことが多いので。

では戸建ての場合、直す費用がいくらくらいとざっくり判断できるようにすることはできますか?

できます。

例えば1000万円くらいで補修できると(エージェントが)判断できれば、お客様により提案しやすいです。

その場で具体的な話ができるといいですよね。もちろんより正確に出そうとするならリフォーム会社に頼めばいいんだけど、不動産ってとにかく早いから。

物件が流れちゃいますよね。エージェントとして求められる知識でいうと、その場である程度具体的な情報を提供できないといけなくて。「直せるか直せないか」も含めて、その場で判断したいところです。

工事費用を10万円単位では難しいとしても、100万円単位くらいでは判断できるようになるはずです。それは学べば大丈夫です。

大事なのは「知っておくこと」

大久保さんは本当に検査の世界が長いですよね。さくら事務所以前も、がっつり建築の仕事をされていましたよね。

それ以前は建築会社で施工の世界にいました。それで、基準がないことを知って、この世界を何とかしたいと思っていて、さくら事務所に入ったという経緯です。

つまりインスペクションですか。

実はインスペクションの前からで、その時は建物調査と呼んでいましたが、やっていることは同じですね。

「インスペクション」の言葉自体はアメリカから入ってきたんですか?

ホームインスペクション自体はアメリカから入ってきたという感じです。国交省がそう称しているという感じですね。言葉の普及と並行して、徐々に義務化される方向にあります。(現在は告知義務のみ)

それで大久保さんはこれまで、約2000件の物件を見てきています。
率直に日本の建物ってどうなんでしょうか?

うーん、日本の建物がどうかというか、当時の基準や時代なので仕方ないのですが、断熱材が入っていないような建物もまだかなり多く残っています。つまり問題のある建物は存在します。
大事なのはエージェントが、当時の時代背景とか、当時の建物はこうだった、だから対処法はこうだということを知っておくことです。

工業製品ではないモノを判断する難しさ

判断の基準といいますか、70年代のある構造のマンションは買ってはいけない!といった公式のようなものはないのでしょうか?

それはよく聞かれます(笑) でも残念ながら、「この年代」や「この建て方」が危ないといった画一的なものはありません。

まず、年数では区切れない感じ?

年数では区切れないですね。僕の経験上ではマンションは、年数によって良し悪しはそんなにはっきり分かれていないです。(古いマンションの多い)URのマンションのコンクリートの圧縮状態などを調べたことがあるんですけど、強度も問題なかったんですよ。

築40、50年の日本のマンションは問題ないということ?

まったく問題ないものもあります、という言い方になりますね。

問題あるものもあるってこと?(笑) 
だとすると、それをどうやって判断するのかやっぱり知りたいよね。

マンションってそもそも工業製品ではないので、何かで区切るということが非常に難しいんですよ。

でも実際に、杭が届いてないとか、工期が間に合わなくて急いで作っちゃったとか顕在化したマンションの問題があるわけじゃないですか。

もちろんそうです。でも先ほど言った通り工業製品でないので、「〇〇だから問題がない」とか、「〇〇だから問題がある」とはっきり言えないんですよね。根拠がない。だからこそチェックするポイントを掴み、管理や修繕履歴から推測して、リスクを小さくしていくことが大事です。

とんでも物件を見抜いてリスクを減らす

では戸建ての場合はどうでしょう?

これも一概に言えないということになっちゃうんだよね。

わたしの肌感覚でいうと、建売がばっと一斉に建った30年前くらいかな、その頃の建売は安普請というか問題のある物件が多い気がします。

仕様は確実に良くないですよね。

それで構造の質も悪いという感覚があるんですけど、そんなことないですか?

これも難しいですよね。先ほどもちらっと言いましたが、断熱材が入ってないような家があるけど、当時の建築基準法でいえば問題ない。逆に必要以上に入っているけど、気密がダメとか、そういう建物がたくさんあります。だから、それが現状に合っているかどうかは一軒一軒調べ、お客様にはアドバイスする必要があります。

やっぱり戸建てでも一概には言えないってことですか?

これも悩みどころで、言いたいけど言えない(笑)
つまりどういうことかというと、私の経験の中で分かっていることとして、当時のあるパワービルダーの物件の中で、とんでもない物件が出てきたりしてきてはいます。
でもだからと言って、そのパワービルダーの建物が一概にアウトではないです。あくまで確立の問題です。

とんでもない物件とは?

それこそ防水シートすら入ってないような戸建てが存在していますね。

それは外からでも分かりますか?

それは家の中見せてもらえばわかりますね。天井裏とか。エージェントの人が「見せてください」と言えば見せてもらえると思うので、ポイントを押さえれば簡単に判断できます。

クリティカルな問題を知ろう

そういったリスクを考えると、いま戸建てってすごく進化してるじゃないですか?
当時の建売をお金払って直すんだったら、いまの建売を買った方が安心して住めるケースも多いと思っていて。

それはあると思いますね。当時の建売って、ほんとに勉強してない住宅会社が作ってたりするので。

「買ってはいけない」の本題というか、これだけはダメという直しようがないような建物ってどんなものでしょう?

戸建てでクリティカルな問題になるのは耐火性能がありますね。当時の耐火構造が現在は違反になっていることがあります。これは火災保険と関わるので「売ってはいけない」不動産です。

それは直せるものですか?

耐火が違反になっている場合は、ほぼほぼすべて構造を改修しないといけないので、難しいですね。

ほかに不動産エージェントに注意してほしいポイントはなんでしょうか?

これは今までの話と少し視点が変わっちゃうんですが、マナーですね。売主さんの手前、建物に問題があってもその場で言えないこともあります。テクニックでもありますが、そこを学んでほしいです。

そうですね、買主さん側に立っている場合ですけど、売主さんの前では建物のリスクを言えない、あるいは聞けないことが多いです。そういうマナーも含めて、大久保さんにも教えてもらいながらサロンメンバーにはお伝えできればと思います。






不動産フリーエージェント養成『大久保サロン』
ホームインスペクターとして 、2,000件以上の調査の経験をもつ大久保 新が自らの体験をランダムに発信し、これから不動産フリーエージェントとして活躍したい人に、ノウハウを提供しサポートいたします。


建築の知識を深めたい
建物について教えてほしいなど、興味のある方はサロンへご入会ください!!