「空き家差し上げます」と言われたら?不動産エージェントが取るべき対応と対策

最近、家じまいの相談を受けることが多くなってきています。そうした中で困るのが、売ることも引き取ってもらうことも難しい家が増えてきているということです。

2024年に総務省統計局によって公表された「令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計結果」によると、全国の空き家の数は900万戸で、2019年の調査時より51万戸増加し、過去最多となっています。

日本の総住宅数はおよそ6500万戸とされていますから、なんと全体の約13%が空き家になっていることになります。

空き家の数がそれだけあると、そもそも売るのも難しい。田舎にある家だと住みたがる人も少ないし、解体するにも費用がかかる。

その結果として、無料でもいいから引き取ってほしい。というニーズも増えてきているのです。

では、不動産エージェントとして「空き家差し上げます」と言われたら、どうしたら良いのか?

一緒に考えてみたいと思います。

まずは、私が実際に経験した事例をご紹介しましょう。

相続した空き家が「タダでもいらない」と言われた話

先日、山口県の市街化調整区域にある大きな敷地と家について相談を受けました。 相続不動産ですが、建物は旧耐震の鉄骨造と木造の混合です。 鉄骨部分は錆びつき、今にも崩れそうな状態でした。

私が地元の知り合いの建築会社に「無料で使わないか?」と持ちかけたところ、すぐに現地を確認してもらえました。

その結果は、無料でも引き取るのは難しい。というもの。

その理由として…

  • 接道状況が悪い。前面道路は狭くて車一台しか入れない。
  • リフォーム代が高くつく。
  • 敷地が広い(900㎡)ので、草刈りをするにも業者に頼まなければならない。
  • 集落の近くにあるため、引き取った後に放っておくこともできない。

私としても、納得できる理由と結論です。

依頼者に業者は無料でも引き受けるのは難しいと言っている。解体するにも費用がかかるということを説明すると、「お金はかけられないので、地元の不動産業者に聞いてみる」とのことでした。

確かにどんな物件であっても査定して、固定資産税評価額をはじき出すことは可能です。固定資産税の基準となるので、マイナス評価にはなりません。そのため地元の不動産業者なら、いつかは売れるかもしれないから、とりあえずレインズに乗せておこう、と物件を預かることはするでしょう。

ただ、それが依頼者の望み通りの結果になるかというと、それは非常に怪しい。

なぜならいざ売ろうとなると、やはり先に上げたような問題点やコストの問題を解決しなければならないからです。

さらにいつ売れるかも分かりませんから、その間の維持費もかかります。依頼者は離れた場所に住んでいるので、そうそう現地に足を運ぶこともできません。

そして時間が経てばたつほど、さらに売れなくなくなってしまう…。

現時点で「タダでもいらない」と言われた不動産が、果たして地元の不動産屋さんに預けて処分できるでしょうか?

これは決して特殊なケースではありません。 例えば那須高原の別荘地でも、100万円の土地が100件以上も売れ残っています。

親や先祖が大切にしてきた家や土地も、今では「負の遺産」になってしまっているわけです。

この現実を受け入れて、売れそうにない相続不動産の処分方法を早急に検討すべきです。

そして実際に、そのための動きも広がってきています。

増加する空き家の無料引き取りサービスとその課題

無料でもいいから不要な家を引き取ってほしい、という人のために、様々な制度やサービスが用意されています。

相続土地国庫帰属制度

相続土地国庫帰属制度は、相続によって取得した土地を、一定の条件を満たした上で国に引き取ってもらえる制度です。

「一定の条件」には様々あるのですが、更地であることが大前提です。相続『土地』国庫帰属制度なので、土地しか引き取ってもらえないんですね。

建物が残っている場合は、当然ながら相続人が解体しなければなりません。そのため空き家を引き取ってもらいたい人にとっては、あまり役に立たないかもしれません。

空き家バンク

空き家バンクは各自治体が提供する、空き家の所有者と購入希望者をマッチングさせるサービスです。

空き家バンクに相続した空き家を登録しておけば、無料で引き取りたいという人が現れるかもしれません。

しかしあくまでもマッチングサービスなので、成約までの時間が読めないところがネックでしょうか。

特にへき地や老朽化した建物の場合、引き取り手が見つからないことも珍しくありません。

また自治体によっては登録できる空き家に条件を設定しているところも。耐震基準を満たすことや一定のリフォームが必要なこともあるので、必ずしも無料で引き取ってもらえるわけではありません。

空き家マッチングサイト

民間の企業や団体が提供するのが、空き家マッチングサイトです。

提供主体が異なるだけなので、サービスの内容や課題については空き家バンクと大きな違いはありません。

空き家バンクもそうですが、マッチングサイトは個人間での取り引きとなるため、後でトラブルとならないようにしっかりと家の状態や条件などを確認することが大切です。

またサイトごとに運営体制やサポートの質も異なるため、信頼できるサイトを見つけること、またあくまでも利用者の自己責任であることを覚えておく必要があるでしょう。

このように無料で空き家を引き取ってもらえるサービスは色々と出てきてはいますが、手続きが面倒だったり、条件を満たす必要があるなど、なかなかすんなりとはいかないのが現状です。

また本当に無料かというとそうでもなく、実際には費用を負担しなければならないケースも多いようです。

ではこうした事例をふまえて、私たち不動産エージェントが「空き家差し上げます」と言われた時に、どのように対応したら良いのでしょうか?

不動産エージェントが取るべき対応

「無料でもいいから家を引き取ってほしい」と相談された時に、不動産エージェントはどのように対応したらよいか。私も随分このことを考えてきました。

結論としては、今すぐに行動すること。

グズグズしていると、これからますます空き家の処分は難しくなってくることが容易に想像できるからです。

とはいえ、具体的にどうしたら良いか。

売り手がつくような物件であれば、不動産業者も無料で物件調査を引き受けるでしょう。でも、タダでも引き取り手が見つかるかどうかという物件なら? 向こうも商売なので、そんな物件を本気で調査するとはとても思えません。

国庫帰属制度を利用するにも更地にしなければならず、測量図も必要です。境界を確定しなければ申請自体もできません。

国庫帰属制度にしてもその他の方法を探るにしても、まずは不動産の状態を確認すること。しかし値段がつきそうにない物件であれば、地元の不動産業者も二の足を踏むでしょう。

そこで、不動産エージェントの出番です。

相続した空き家についての相談を受けたら、まず物件調査を行い、最適な家じまいの方法を提案するのです。

登記簿や公図、測量図などと現況を照らし合わせ、建物の状態とともに、間違いがないかどうかを確認します。第三者の占有がないかなどのチェックも必要ですね。

その上で、リフォームをする価値があるかどうか、それとも解体して更地にした方が良いのかなど、依頼者の要望に叶う方向で提案を行います。

売れるのか・売れないのかを見極める。売れない場合は、どうするかの判断をしてあげる。

それが、不動産エージェントとして私たちが家じまいで困っている相談者にしてあげられることではないでしょうか。

ただここで問題となるのが、手数料です。

売れそうな物件なら、問題ありません。無料で調査した上で販売し、手数料をいただければ良いのです。

でも、その空き家が売れそうにもなかったら?

調査をしても、売却できなければ仲介手数料は入りません。とはいえ、調査しなければ売れるかどうかの判断もできない。

そこで、次の方法を皆さんにも提案したいのです。

有料で調査を引き受ける

空き家が売れるかどうか、それとも処分したほうが良いのか。処分するにしてもどんな方法が最も相談者にとって最適なのか。それを探るためにはしっかりとした調査が必要です。

しかし調査には手間もコストもかかる。

であれば、最初から必要な費用を頂戴したうえで、しっかりとした調査を行えば良いのではないでしょうか。

例えば、卓上での物件調査。

ネットや電話で情報収集ができる範囲の調査を、3万円くらいの調査費で請け負います。

現地調査を行うのであれば、10万円~+必要経費をいただく形になるでしょう。

無料のサービスに責任はありません。調査費をいただくからこそ、責任のもてる調査が行えるのです。

実際に私が3万円から調査できますよ。と言うと、大抵の方は驚かれます。こんな値段で良いんですか?と。

もちろん、お金がかかるなら要らないと仰る方もいらっしゃいます。3万円が高いかどうかの価値観は、人それぞれ。

でも3万円で調査をしてもらえて、プロの目からアドバイスしてもらえたら助かるという人の方が大多数だと、私は考えています。

調査した上で不動産取引の対象になるようなら、相談者にとってももうけもの。もともとは「空き家差し上げます」という気持ちで来られているわけなので、売れないにしても処分する方法が明確になれば、相談者も安心できるのではないでしょうか。

調査の結果、売却が難しい状況であれば、そのまま所有を続けるか、お金を支払ってでも引き取ってくれる業者を探すか、あるいは国庫帰属制度を利用して国に引き取ってもらうか、相談者の意向に沿った提案とサポートを行います。

ただやはりそのためにも、調査は必須なのです。

業者に引き取ってもらうにも、空き家の状況をしっかり把握しておけば、引取価格も交渉できるでしょう。

国庫帰属は基本的に本人か家族が申請することになっています。ただ境界の確定や申請書類の作成は素人にはなかなか難しい。そのため代理人として弁護士や司法書士の代行が認められています。

宅建業者は国庫帰属の代理人としては認められていませんが、委任状があれば本人に代わって法務局へ相談することは可能です。申請者は本人ですが、書類の作成は宅建業者でも可能という理屈です。その書類の作成費用を頂戴すれば、仕事としても成り立つでしょう。

無料でも引き取ってもらえない|家じまいの難しさ

家じまいが本当に難しい時代になってきました。

そのため、当社ではこのようなサイトも運営しています。

家じまいといっても、一般の人は何から始めれば良いかわからないし、誰に相談したら良いのかもわからない。

そこでまずは、自分で物件の情報を調べる方法を説明しています。

都心のきれいな住宅街ならともかく、地方だと調べられないことも多いため、自分で調べたことをもとに無料相談を受け付けています。

その上で、必要なら有料で机上調査を引き受けます。

もしくはさらに細かな調査が必要となれば、現地調査を含む全調査を実施します。

全調査をしてみると、私たちも驚くような発見があることも。詳しくはサイト内を見ていただきたいのですが、普通ならば処分の難しい空き家が売れたという事例も紹介しています。

仲介手数料が主な目的で、売れそうにない空き家は相手にしないという不動産屋さんも少なくありませんが、私たちはエージェントとして、家じまいにも相談者に寄り添った対応を心がけています。

もちろん無料では動けませんから、しっかりと費用をいただいた上で調査し、相談者に最適な家じまいの方法を提案して差し上げるのです。

まとめ

値段のつかない空き家を引き取ってもらえるのは助かるとしても、その家はその後、どうなるのでしょうか?

たとえ空き家だとしても、不動産は大事な日本の国土です。

不動産エージェントとして不動産に関わる以上は、その土地や建物が今後どのように活用されるかにも思いを致すべきではないでしょうか。

不動産を扱うプロとして、日本の国土を守るという気構えが大事だと考えます。

そのため、私は空き家問題にもこれまで真剣に取り組んできました。

空き家の数は今後さらに増え、それに伴って処分するのもさらに難しくなっていくでしょう。

まずは、適切な管理や活用策を検討する。どうしても処分せざるを得ないのであれば、最適な家じまいの方法を提案する。

そのためにも費用をいただいた上で、しっかりとした物件調査を行ってください。

「空き家差し上げます」と言われても、全てが無料で完結するわけではありません。

だからこそ、プロの不動産エージェントとして責任のある対応を取りたいと思うのです。











この記事を書いた人

不動産エージェント 藤木 賀子

スタイルオブ東京(株)代表。
25歳で建築業界に入り、住宅・店舗・事務所・外構の営業・設計から施工まですべてを経験。
世界の建築に興味があり、アジア・北米を中心に建築を見て回り、いい家を追求すべく世界の家を研究。結果、いい家とは『お客様の価値観』にあることに気づき、自分が作るよりお客様の代理人としてお客様の想いを可視化・具現化・実現化することが出来る不動産プロデュースの道に。
これまでの経験とスキルを、不動産エージェントとして活躍したい人に向けて発信中。


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