工務店の2025年問題と不動産エージェントの果たす役割

依頼人に寄り添いつつ、夢のマイホームを実現させる不動産エージェント。
彼らの希望を叶えるために大手のハウスメーカーではなく、地元で活躍する工務店に施工をお願いすることも少なくありません。

しかしそうした工務店に、これからは仕事をお願いできなくなるかもしれません。

なぜなら工務店にとっては死活問題となり得る、大きな課題が立ちはだかっているからです。

それが、工務店の2025年問題です。

今回はその工務店の2025年問題を取り上げつつ、私たち不動産エージェントが果たすべき役割について考えてみましょう。

工務店の2025年問題とは

1.省エネ基準適合の義務化

建築基準法の改正によって、2025年4月以降、新築住宅の省エネ基準適合が義務化されます。

≪建物の省エネ基準とは≫

建物の省エネ基準は、建築物がエネルギーを効率的に使うために守るべき設計・施工の基準を示したものです。断熱性能の向上やエネルギー消費設備の効率化、太陽光発電などによって、建物のエネルギー消費を抑え、環境負荷の軽減を目指します。

これまでは300㎡未満の住宅や非住宅は、省エネ基準適合の対象から外されていました。しかし2025年以降は、全ての新築住宅がこの基準を満たさなければなりません。

特に断熱性能と一次エネルギー消費量に関する基準が新たに加えられたため、これからは断熱性能が高くてエコな家しか建てられなくなります。

工務店にはこの省エネ基準を満たす家づくりが求められるのは当然として、省エネ関連の書類の提出など、今まで以上に手間やコストが求められるようになります。

省エネ基準適合の義務化についてさらに詳しくは、こちらをご覧ください。

2025年の省エネ基準適合の義務化について (https://styleoftokyo.jp/insulation/dannetsufudousan_003/)

2.4号特例の縮小

2025年の建築基準法の改正は、省エネ基準適合の義務化だけにとどまりません。同年4月から、4号特例も縮小されます。

≪4号特例とは≫

4号特例とは、建築確認の審査の一部を省略できる制度のことです。木造の場合は2階建て以下、床面積が500㎡以下、軒高9m以下、高さ13m以下の建物が、そして木造以外は平屋かつ床面積が200㎡以下の建物が特例の対象となっていました。

これまで木造の一般住宅のほとんどは4号特例の対象となっていましたが、2025年からこの特例が縮小され(事実上の撤廃)、一般住宅も必要な書類を全て提出しなければなりません。

特に工務店に大きな影響を及ぼすのが、構造計算です。

家の強さを担保するのが構造計算ですが、4号特例によってこれまでは木造の一般住宅は省略しても良いことになっていました。ところがこれからは全ての住宅に、構造計算が求められることになります。

これまで構造計算を行ってこなかった小規模の工務店は、この改正に対応できない可能性もあります。

4号特例の縮小についてさらに詳しくは、こちらをご覧ください。

家を支える「木の強さ」について考えよう!【後編】
(https://www.sotsoken.jp/considering-the-strength-of-wood-part-2/)

3.相続登記の義務化

建築基準法の改正以外にも、工務店には取り組むべき課題が残されています。

その一つが、相続登記の義務化です。

いわゆる空き家問題を解決するため、2021年に「民法等の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立し、2024年4月から施行されました。

これにより、相続や遺贈によって不動産を取得した人は、それを知った日から3年以内に相続登記の申請を行わなければならなくなりました。

相続登記が義務化されると、所有者不明の空き家は減るでしょう。それ自体は歓迎すべきことです。

しかし工務店の視点で考えてみると、相続不動産の売却件数の増加による不動産価格の下落、未登録の土地の場合には相続税に関わる特例や特別控除が受けられなくなり、結果として工期が伸びてしまうなどの影響が考えられます。

ただ家を建てるだけが工務店の仕事というわけではなく、不動産にまつわる法律や世間の潮流の変化というものにもしっかりと対応していかなくてはなりません。

相続登記の義務化についてさらに詳しくは、こちらをご覧ください。

4.働き方改革による人手不足

不動産業界の現場では、職人の高齢化と深刻な人手不足が喫緊の課題となっています。

2019年に「働き方改革関連法」が施行され、残業時間の規則が厳格化されました。建設業や運輸業などに対しては5年間の猶予期間の措置が取られたのですが、それも2024年に期限切れとなります。

労働時間をしっかりと定めて、働く人の健康を守ることは何よりも大切なことです。

しかしただでさえ長時間労働が常態化していた建築業界では、特に中小の工務店に大きな影響が及んでいます。

目の前の納期を守ることが難しくなるだけではなく、これから先、どのようにして事業を継続していけばいいのか頭を悩ませている工務店も少なくありません。

働き方改革による人手不足についてさらに詳しくは、こちらをご覧ください。

工務店の2025年問題への不動産エージェントの果たす役割

ここまで見てきたように、2025年問題は工務店に大きな影響をもたらします。

では、不動産エージェントとしてこの問題にどのように取り組んだらよいのでしょうか?

1.省エネ基準適合への取り組み

地域に根ざす工務店の良さは、人間味あふれる温かさでしょう。少しくらいの無理も、男気で引き受ける昔ながらの職人さんに自分の家を任せたい、と考える依頼人も少なくありません。

しかし、これからの時代、人が良いだけの工務店は生き残れません。

省エネ基準適合の義務化によって、断熱性能は最低でも4、さらに一次エネルギーも抑えたエコな家づくりがすでにスタンダードになっていきます。

とはいえ、これ自体は決して難しい注文ではありません。

省エネ基準に適合する家づくりは、すでに多くの工務店が行っているからです。

求められているのは、今までの経験で培ってきた家づくりの技術に、しっかりとしたエビデンスを提示すること。しかし経験と勘に頼った家づくりをしている工務店には、それが面倒だと言うのです。

そんな工務店は、この機会に無くなっても構わないと私は考えます。

安心・安全な家づくりを求めるクライアントに対して、信頼できる工務店だけを紹介する。それも、私たちの大切な仕事です。

もちろんエビデンスのためにはその分、コストもかかるでしょう。しかしそのコストも、これまでしっかりとした家づくりを行ってきた工務店なら、それほど大きく上昇するとも思えません。

技術の確かさだけではなく、時代の流れにしっかりと対応してくれる工務店を見極めることも、エージェントにとって必要な要素になっていくでしょう。

2.4号特例の縮小への取り組み

2025年問題で工務店に一番ダメージが大きいのが、4号特例の縮小でしょう。

何しろこれまで構造計算なんてしたことがない、という工務店も多いからです。

そういう工務店が新築住宅を手掛けるときには、構造計算を外部に発注することになります。

コストは数十万~100万円ほど。もちろん、家の大きさや設計によっても変わってきます。

不動産エージェントとしては、そのコストをしっかりと依頼人に説明すること、もしくは構造計算を自分たちでできる工務店に依頼するという対応が求められます。

新築よりもさらに問題なのが、中古住宅です。

これは省エネ基準適合への取り組みとも関係するのですが、中古戸建てをリノベーションするとき、築浅であれば図面上で耐震性や断熱性を確認して必要な書類を用意できます。

しかし古い住宅の場合、建築確認の完了検査を受けていなくて検査済証のない物件というのも意外と多いのです。

そうした住宅をリノベーションする場合は、改めて図面を起こす必要も出てきます。

不動産取引はスピードが命ですから、いちいち計算して検証している間によそが買い取ってしまうかもしれません。

もしくは断熱性や構造計算にコストをかけたところで、本当にその物件は売れるでしょうか?

だからといって、魅力的な中古物件を取り壊して、更地にして建て替えるのも忍びない…。

そういうときこそ、我々エージェントの腕のみせどころです。

しっかりとした技術と経験を持つ工務店ならば、その物件と築年数を見れば、どれだけの予算と時間が必要なのかをすぐに弾き出すことができます。

その見積りを依頼人に提示して、購入の方向に進むのであれば、すぐに必要な書類作成に取りかかる。

信頼できる工務店と普段から密なコミュニケーションを取り、良い関係を築いておく。それも私たち不動産エージェントに求められるタスクの一つなのです。

3.相続登記の義務化への取り組み

相続登記の義務化はデメリットだけではなく、メリットともなり得ます。

既存の住宅にも適用されるため、これまで放ったらかしにされていた家や土地も登記しなければなりません。

そのため、空き家や土地を処分したいという依頼の増加が予想されます。

新築住宅の価格が上がり続けている中で、中古住宅の需要も高まってきています。

良い物件ならリノベーションして、しっかりと売る。

腕の良い工務店とタッグを組んで、こうした中古物件を専門に扱うエージェントという道も、十分に考えられるでしょう。

4.働き方改革による人手不足への取り組み

大手ハウスメーカーではDXなどを活用して、労働時間を抑えつつも生産性を上げる努力を行っています。

しかし中小の工務店にまで、そのノウハウが浸透するのはもう少し時間がかかるでしょう。

お金はかかってもいいから、なるべく工期を短くしたいという顧客に対しては、大手ハウスメーカーを紹介できるかもしれません。

でもなるべく予算を抑えつつ、望み通りの家にしたいという依頼人に対しては、工務店にお願いするほうが良いでしょう。

その場合には、建築業界の人手不足と働き方改革による残業時間の上限についてしっかりと説明して、以前よりも工期が延びていることを納得していただくしかありません。

人手不足は日本全体の問題になっていますから、依頼人のほとんどは理解してくださるでしょう。

しかしそれに甘えることなく、顧客・工務店双方ともにコミュニケーションを十分に取って、引き渡しまでの期間を設定し、見届ける。

それはまさに、私たち不動産エージェントが果たすべき役割です。

まとめ

工務店の2025年問題は、建築基準法の改正や相続登記の義務化、さらに働き方改革による人手不足など、複数の要因が絡む複雑な課題です。

私たち不動産エージェントは工務店と連携しながら、こうした問題に取り組み、顧客の願いを実現させなければなりません。

時代の変化とニーズに即したサポートができるよう、引き続き知識とスキルを磨いていきましょう。











この記事を書いた人

不動産エージェント 藤木 賀子

スタイルオブ東京(株)代表。
25歳で建築業界に入り、住宅・店舗・事務所・外構の営業・設計から施工まですべてを経験。
世界の建築に興味があり、アジア・北米を中心に建築を見て回り、いい家を追求すべく世界の家を研究。結果、いい家とは『お客様の価値観』にあることに気づき、自分が作るよりお客様の代理人としてお客様の想いを可視化・具現化・実現化することが出来る不動産プロデュースの道に。
これまでの経験とスキルを、不動産エージェントとして活躍したい人に向けて発信中。