離れて暮らす高齢の親の家じまい

地方の空き家になる物件をコンサルするという新しいビジネス

日本では近年、空き家の増加傾向が続いています。

総務省統計局によると、2018年における空き家総件数はおよそ848万戸と過去最高。またここ30年で114.7%の増加という、凄まじい勢いとなっています。

出典:総務省統計局

これは少子高齢化や都市部への一極化などの様々な要因が関係していますが、誰も住まずに放ったらかしにされる家がこれからもどんどん増えていくことは間違いないでしょう。

こうした背景もあって最近よく受けるのが、地方の親が暮らす家に関する相談です。

相談者は都会で働いていて、親が地方に住んでいる。その親が亡くなったり、施設に入るなどして実家に住む人間が誰もいなくなってしまう。その家をどうしたら良いか?というものです。

家は誰も住んでいなくても、固定資産税や火災保険がかかります。そのため誰も住む予定がないのであれば売却するなり取り壊すなりと、なるべく早く処分したいところ。

しかし地方の家じまいというのは、そんなに簡単なものではないのです。

地方の家じまいの難しさ

都会の家であれば資産価値が高いことも多く、家や土地を売却するのもそれほど難しくはありません。

ところが、地方では事情が大きく異なります。

地方の高齢の親が住んでいる家というのは築年数が古くて、資産価値がほとんど無いということが少なくありません。更地にするにも解体費用がかかりますし、過疎化が進んでいる地域では、土地に買い手が見つからないことも多い。

また地元の不動産会社に売却の相談を持ちかけても多くの場合、あまりいい顔をされません。というのも不動産会社にとって、資産価値が低い物件を取り扱っても手にできる仲介手数料が安く、手間ばかりかかって儲けは少ないというのが実情なのです。

例えば、売却額が400万円の場合、不動産会社が手にできる仲介手数料はおよそ20万円。仲介手数料は宅建法によって上限額が定められているため、それ以上を勝手に請求することはできません。

これでは、不動産会社が乗り気にならない気持ちもよく分かります。

実際に地方の不動産会社を訪れると、対応の悪さにびっくりすることがありますが、それはこうした事情も関係しているのでしょう。手間の割には儲けが少ないため、誰も手を出したがらない。この条件で嫌ならば、どうぞ他所に行ってください。というような応対をされがちなのです。

そのため、いざ地方に住む両親などの家を処分したいと思って相談しても、不動産会社優位に話が進んでしまい、納得できないまま仕方なくお願いしてしまう方も少なくありません。

地方の空き家になる物件をコンサルするという新しいビジネスモデル

地方の家じまいにはこのように、依頼者・不動産会社双方ともに時間や手間ばかりかかって望み通りの結果を得ることは非常に難しいのが実情です。

ではどうするか。

私が提案したいのが『不動産コンサルフィーをいただいて物件調査をする』という新しいビジネスモデルです。

家じまいを考えている人に、その物件に関する正確な調査を行った上で、提案を行う。不動産物件そのものの取引に直接関わるのではなく、その前段階の調査と提案に対して報酬をいただくという考え方です。

不動産の売買では規定の仲介手数料しか発生しませんが、コンサルティングに関しては人件費や必要経費、技術料などを正当に請求することが可能です。

もちろん、相談者からすると仲介手数料のほかにコンサルフィーを支払う必要があるわけですが、不動産会社優位の契約では結局のところ自分が損をしてしまう。それならば、プロの不動産エージェントに調査や不動産会社との交渉を任せてしまおう、という考え方は十分にありうるはずです。

不動産会社としても、現地の様子や物件のことをよく理解していない相談者と交渉するよりも、不動産エージェントが間に入ってくれたほうが安心して取引できますし、何よりも正確な調査がなされている物件であれば手間もそれほどかからないため、引き受けやすくなるでしょう。

都会の物件であれば高額な仲介手数料が発生するため、相談料や調査費を無料で行うという考え方もあるかもしれません。しかし、資産価値の低い地方の古い中古物件ではそうもいきません。

しっかりとした調査を行った上で、相談者が本当に納得できる家じまいを提案すれば、その取り引きに関わる全ての人が幸福になれるはずです。

弁護士に相談するのにも、コストは必ず発生します。

不動産エージェントも、自分を安売りする必要は全くありません。

プロの不動産エージェントとして、空き家や家じまいに関するしっかりとした調査と提案を行って、相応のコンサルフィーをいただくというのはしごく真っ当なことではないでしょうか。

では、実際にどのように地方の空き家や家じまいに関するコンサルを行えるのか?

私が実際に携わった案件を、一つのモデルケースとしてご紹介します。

地方の家じまいに対するコンサルの実例

今回相談を受けたのは、次のような状況です。

  • 相談者:都内で働く女性
  • 家族構成:母一人、娘一人
  • 母親の状況:近々、施設に入る予定
  • 実家の様子:小さな工場を経営。古い工場と自宅がある
  • 街の様子:人口およそ1万6千人。最多年齢層70歳以上、未就学・在学者の割合は18.5%。周辺は畑が多く、コンビニやスーパーも遠い。浸水や津波の恐れがない、のどかな場所
  • 相談内容:母親が施設に入るタイミングで実家を処分したい。売却できるのかどうか。売却できない場合、どうしたら良いかのご相談を受ける

まず、建物が新耐震基準か、それとも旧耐震基準で建てられたのかどうかを確認するために築年数を尋ねましたが、よく分からないとのこと。

そこで、登記簿本を取ってもらうようにお願いしました。そうすると、お父様が亡くなられた際の遺産分割協議書が送られてきました。それによると建物は増築され、土地は何筆にも分割されていました。

これは知識のない素人では難しいと判断し、遺産分割協議書をもとに謄本、公図、測量図をオンラインで申請。結果、隣地との共有の敷地が道路に面している、市道の一部の所有権がある、測量図は昭和40年代のものなど、少し面倒な土地であることが判明しました。

さらに、建物の建築年は昭和40年代とかなりの年代物で旧耐震、さらに建物の増築分などは未登記であることから、建物自体の資産価値はゼロ。更地にして土地だけを売るにしても、買い手がつくのかという問題が残る物件でした。

<物件情報>

  • 建物:工場・建物が昭和45年築の鉄骨木造、倉庫が昭和47年築の鉄骨造。いずれも旧耐震基準
  • 土地:総面積339.02㎡(内、公衆用道路が2本含まれる)
  • 資産査定額:587万6千円(建物0円、土地587,6万円)

<懸念点>

  • 敷地の筆が複数に分かれているため、売却しやすいように情報を整理することが必要
  • 土地内に公衆用道路が含まれている。自治体に寄付が可能だが、2名による共有名義のため、依頼者単独での寄付は不可
  • 土地の売却のためには境界の測量が必要。また市道との接道箇所が不明確なため、これも調査が必要

相談者の母親は数カ月後に施設に入る予定、そのためすぐにでも売りに出したいとのこと。

土地の評価額はおよそ590万円。これを売却したとしても、不動産会社に入る仲介手数料は最大でも23万円ほどにしかなりません。これでは、このちょっと面倒な案件をどこも引き受けたがらないでしょう。仲介手数料は土地の売却後にしか手にすることはできません。それまでは完全にタダ働きになってしまうからです。

相談者は遠方に住んでいて、不動産取引のことは何もわからない。不動産仲介業者のやる気が出ないような本案件では、顧客にとって不利な取り引きになることは目に見えています。そのため、相談者にコンサルフィーをいただいて、正確な物件調査を行うことを提案しました。卓上での物件調査と整理、謄本などの費用は別途実費。その後の現地での物件調査は出張費も別途請求。ここまでやれば現地の不動産仲介業者も、公平な条件で引き受けてくれるに違いありません。

物件調査を行った上で、相談者には次のような提案を行いました。

  • 本物件の周辺は、緑豊かな環境で、環境良好と⾔えます。また、震災時の液状化や津波浸⽔の可能性も低く、災害の不安も少ないエリアと考えられます。一方で買い物や病院、学校などへの利便性が悪く、居住性が⾼い場所とは⾔えません。⼈⼝動態として、近隣の⼈⼝は減少し、⾼齢者数は増えている状況です。
  • 建物が旧耐震基準の鉄⾻造であることから、中古物件としての販売は難しいと考えます。⼟地を売却するためには、更地にする必要があります。周辺環境や⼈⼝動向から考えると、将来的に売却しにくい状況になることが想定されます。
  • 売却準備の⼿順:1.測量の調査実費費⽤がかかります(⾒積)。2.道路、物件詳細調査実費費⽤がかかります(⾒積)。3.解体費算出(⾒積)。
  • 売却できない可能性があります。その場合は、相続後に国庫に帰属させる制度(相続⼟地国庫帰属法)を利⽤し、⼿放すことができます。この制度は相続後でなければ申請できません。また制度利用のためにクリアすべき要件は土地売却の手順とほぼ同じなため、まずは売却の準備を進めることが適当です。

(もちろん、相談者には詳細な資料を作成して送付しています)

以上のことを提案した結果、相談者はすぐに売り出しにかかることを決断されました。

売却に向けての相談は相談者本人が地元の不動産会社と行うことになりますが、これだけの調査を済ませた後であれば、仲介業者も快く受け入れてくれるでしょう。相談者も無駄な時間と手間をかけずに問題点と解決方法がクリアになっため、安心して決断を下すことができたと、とても喜んでおられました。

この案件については、土地が売却できたとしても解体費用や測量費などで相談者の持ち出しになる可能性がありますが、親の預金があるため大きな問題とはなりませんでした。それよりも母親がいなくなった後の家をどうしたらよいか、という不安がなくなったことのメリットが上回ったようです。

このように、地方の空き家や家じまいをコンサルティングするという新たな手法は、関係する全ての人が満足できる結果へと導くことのできる、非常に魅力的なビジネスモデルであると言えるでしょう。

今後の展望

不動産エージェントにとって、都心部の不動産売買は仲介手数料も高くて確かに魅力的であることは間違いありません。

しかしそうしたエリアでの不動産取引は競争相手も多く、まさしくレッドオーシャンです。

一方で地方の不動産、特に空き家や家じまいなどの取り引きは手間がかかるわりに儲けも少なく、誰も手を出したがりません。しかしだからこそ、そこには新たなビジネスチャンスが眠っているのです。

最初にも述べたとおり、日本の空き家件数は年々増加しています。2018年における高齢者のいる世帯数は、1,849万世帯。そのうち子どもらが相続する可能性が高いと考えられる世帯が52%、約990万世帯に上ると考えられています。さらに二次的利用住宅・賃貸・売却の空き家を除いた住宅(約348万戸)のうち、相続で取得(54.6%)した戸数が約190万戸。そのうち、解体費をかけたくないと考えている割合が約47%で、約89.3万戸となります。

出典元:総務省統計局

つまり、合計1,079.3万世帯が現在及び将来に渡って、親の不動産について悩みを抱えるターゲット層となるのです。

そうした地方の家じまい、空き家になってしまう家をコンサルするというビジネスには、まだ誰も手を付けていません。その上、市場は広大。まさしくブルーオーシャンなのです。

さらに法改正により、2024年から相続登記が義務化される予定となっています。そうすると、土地・建物・マンションなどの所有者が亡くなった際に、必ず相続人の名義に変えなければならなくなります。

つまり、地方の空き家や家じまいに関する相談は、これから間違いなく増加することが見込まれているのです。

地方の空き家になってしまう物件や家じまいの調査を請け負い、問題点をクリアにして解決方法を提示する。直接の不動産取引ではなく、コンサルを行ってそれに対する正当な報酬をいただくというという新たなビジネスモデルには、非常に大きな可能性が秘められています。

もちろん、何千万円もする新築物件の仲介手数料に比べると、いただけるコンサルフィーは微々たるものです。しかし、一攫千金を狙うのではなく、相談者の小さなお困りごとを解決するという地道なビジネスも、不動産フリーエージェントとして取るべき戦略の一つではないでしょうか。

地方の空き家や家じまいに関する調査およびコンサルは、「レインズ(REINS)」などのシステムを活用して、その多くがオンラインで行えます。実際、私も今回の案件に関しては登記謄本や査定、公図、測量図なども全てオンラインで行い、現地には赴いておりません。
その点でも、コンサルの数をこなせば大きなビジネスに化ける可能性もあると言えるでしょう。なにしろ市場は広大で、競争相手は少ないのですから。

相談者の相談に乗って、彼らの問題を解決してあげるというのは不動産エージェントに求められる役割そのもの。不動産エージェントにとっても非常にやりがいのある仕事となるに違いありません。

もちろん相談者にとっても、お世話になった不動産エージェントのことは忘れないはず。彼らが自分の家を考える時に、きっと自分に相談してくれるに違いありません。さらに地方の不動産会社とつながりを持てることも、不動産エージェントにとって大きなメリットとなります。

離れて暮らす高齢の親の家じまい、地方の空き家になってしまう物件をコンサルするという新たなビジネスモデルは、不動産エージェントにとって新しい、そして魅力的な事業戦略となるはず。

ぜひ、この新しいビジネスにトライしてみてください!






この記事を書いた人

不動産エージェント 藤木 賀子

スタイルオブ東京(株)代表。
25歳で建築業界に入り、住宅・店舗・事務所・外構の営業・設計から施工まですべてを経験。
世界の建築に興味があり、アジア・北米を中心に建築を見て回り、いい家を追求すべく世界の家を研究。結果、いい家とは『お客様の価値観』にあることに気づき、自分が作るよりお客様の代理人としてお客様の想いを可視化・具現化・実現化することが出来る不動産プロデュースの道に。
これまでの経験とスキルを、不動産エージェントとして活躍したい人に向けて発信中。






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