不動産エージェントが持つべき断熱知識
先日、SUUMOが発表した「SUUMOトレンド発表会2024」において、「断熱新時代」が新たなトレンドワードとして発表されました。
(https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/2024/0627_14513.html)
人々の省エネ志向や健康志向、QOL向上といった考え方が、『住む家』そのものに向けられた結果だと考えられますが、これは画期的なことだと感じています。
というのも、日本ではこれまで長らく家の断熱性能が軽んじられてきたからです。
しかしこれからは、高断熱住宅を建てたい、高断熱リフォームをしたいという相談が増えてくることでしょう。
そのため私たち不動産エージェントには、高断熱住宅をコスパ良く予算内に建てたいというクライアントの願いに応えることが求められてきます。
または逆に、断熱性能なんて気にしないよ、という依頼人もいることでしょう。
そうした人にも家の断熱性能に関する正しい情報を与えたうえで、彼らが賢明な選択ができるように助けることも、私たちの役目なのです。
では、不動産エージェントが持つべき断熱知識について、一緒に考えていきましょう。
高断熱住宅が求められている理由
高断熱住宅への注目が高まっていることには、様々な要因が考えられます。
クライアントはなぜ高断熱住宅を求めるのか?
その理由をしっかりと把握することは、的確なアドバイスを与えるためにも不可欠です。
1.光熱費の高騰
高断熱住宅を考えている人が一番心配しているのは、光熱費の高騰かもしれません。
一次エネルギーの輸入コストの上昇、円安、その他の原因によって、今後も電気料金の高騰が続くと考えられています。
高断熱住宅ならば冷暖房機の使用も抑えられるため、電気料金の削減も期待できるというわけです。
確かに高断熱の家ならば夏は涼しく、冬でも暖かいので、その分だけ冷暖房費もかからなくなるでしょう。
そしてエアコンの使用を抑えられるということは電気料金だけではなく、CO2削減にも貢献します。
猛暑日の増加や大雨、台風の激甚化など、気候変動による異常気象の影響をさらに感じる昨今、CO2削減を強く意識する人たちも増えてきました。
エネルギー問題を真剣に考える人にとっても、高断熱住宅はマストなのです。
2.健康的な家への需要の高まり
高断熱住宅によってもたらされる、住む人の健康も大切なポイントです。
高断熱住宅は快適なだけでもなく、健康的な家でもあるということは紛れもない事実。実際に欧米では、家の断熱化を高めることは健康的な側面からもごく当然のことであると認識されています。
例えばイギリスでは、冬に室温が19℃以下になる家は健康リスクが高まる。そして16℃以下になると深刻的な健康リスクが生じると考えられています。
WHOも寒さによる健康被害を避けるため、室度を18℃以上にするよう推奨していますから、家の断熱性能と住む人の健康は直結するということがよく分かるでしょう。
高断熱住宅では室温の差が少ないため、ヒートショックのリスクを下げられることは良く知られています。
しかしそれだけではなく、高血圧のリスクを下げる(※1)、花粉症やアレルギー性疾患を抑えられる(※2)、熱中症予防にも効果的(※3)といった健康面への効果が証明されています。
高断熱住宅は快適に過ごせるだけではなく、様々な病気や疾患を防ぐことが期待できる。そのため、より関心が高まってきているのです。
※1 高血圧:オムロンヘルスケア株式会社と慶應義塾大学理工学部、自治医科大学 循環器内科学部門などが共同で行った研究によると、断熱性能が低い住宅の居住者(50歳以上)の平均血圧が128.8mmHgであったのに対し、高断熱の家では平均血圧が121.0mmHgと低かったことが報告されています。
(https://www.healthcare.omron.co.jp/corp/news/2015/0421.html)
※2 アレルギー性疾患:断熱性能の低い家から高断熱住宅に引っ越した全国10,000人を対象にしたアンケートの結果では、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患の症状が改善されたことが報告されています。
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/aije/76/666/76_666_735/_pdf)
※3 熱中症:東京消防庁の報告によると、熱中症が発生する場所の割合いで一番多いのが「住宅等居住場所」となっています。高断熱住宅は冬に暖かいだけではなく、夏でも涼しい室内環境を作り上げるため、特に高齢者の熱中症予防に効果的です。
(https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/heatstroke003_leaflet.pdf)
3.建築基準法の改正
2022年6月に公布された 「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第69号)によって、2025年から原則的に全ての建築物について省エネ基準への適合が義務付けられる予定となっています。
つまりこれからは省エネの家しか建てられなくなるということですから、自動的に高断熱住宅を求める声も大きくなってきているというわけです。
パッシブデザインの重要性
高断熱住宅を手掛けるときに、私たちエージェントが絶対に持つべき知識の筆頭が「パッシブデザイン」です。
パッシブデザインを簡単に説明すると、「太陽に素直な家の設計を行う」ということ。
太陽は無料で使える暖房機のようなものなので、冬はいかに太陽の光を取り入れ(日射取得)、逆に夏は太陽の日差しをどのように遮るか(日射遮蔽)ということを考えて家を設計するのが、パッシブデザインです。
日射取得と日射遮蔽を最大化させるには、南側の窓を大きくして庇をつけ、それ以外の窓を可能な限り小さくすることが重要。
そのことを前提に、実際に建てる場所に合わせた家のデザインを考えます。
例えば家の南側に隣接するように隣家が建っている場合には、冬の日差しを取り込むのが難しい。そこで、なるべく隣家との距離が取れるように家を北側にずらしたり、一番日差しを取り込みたいリビングの位置を西側に持ってこれないか、ということをデザインするのです。
パッシブデザインは、家の断熱性能を高めるためのベースとなる考え方。これを無視すると、断熱性能的にとてもコスパの悪い家となってしまいます。
目指すべき断熱性能
高断熱住宅を求めるクライアントから一番聞かれる質問が、「家の断熱性能はどこまで上げたら良いんですか?」というものです。
残念ながら、この質問に対してハッキリと答えを出せるエージェントはそう多くはないのではないでしょうか。
一言で高断熱住宅と言っても、その性能にはハッキリとした差があります。
そのため予算やニーズにピッタリ合った、断熱性能を一緒に考えてあげなければなりません。
【断熱性能】
・ 断熱等級4:1999年制定省エネ基準相当
・ 断熱等級5:ZEH基準相当
・ 断熱等級6:2022年新設。「HEAT20」G2レベル相当
・ 断熱等級7:「HEAT20」G3レベル相当。現時点での最高レベルの断熱性能となる
これからは断熱等級4が最低基準となるため、それより上のどのレベルまで目指すべきかをクライアントと一緒に考えることになります。
その際には、ぜひ次に挙げる3つのポイントを元に話し合ってください。
1.トータルコストで考える
クライアントが一番気にするのは、やっぱり予算。
そのためにどうしても断熱性能を高めることによって建築費がどのくらい上がるのか、という点に目が行きがちです。
しかし高断熱住宅をプランニングするときには、その後の維持費も含めたトータルコストで考えることが大切です。
例えば「エネルギー消費性能計算プログラム住宅版(https://house.app.lowenergy.jp/#/)」でシミュレートした場合、断熱等級4と断熱等級7の家とでは、年間の電気料金に6万1千円ほどの差が出てきます。
仮に断熱等級4から断熱等級7の家にするのにかかる建築コスト増分を200万円とすると、30年住めばトータルコストの差はほとんどなくなることになります。
【建築費+電気料金のトータルコスト比較】

断熱等級4と断熱等級7の家とでは快適性や健康面への影響も大きく違いますから、建築費が上がったとしても、長い目で見れば断熱等級7の家にした方が『お得』とも言えるわけです。
2.資産価値で考える
最近はライフスタイルに合わせて住む家を変えていく、という人も増えてきました。
そのため30年以上住み続けた場合のトータルコストではなく、なるべく建築費を抑えたい、と考えるかもしれません。
しかしクライアントが家の売却の可能性まで視野に入れているのなら、なおさら断熱性能の高い家にすることを提案しましょう。
なぜなら、断熱等級4と断熱等級7の家とでは、資産価値という点でも大きな差が出てくることが予想できるからです。
2025年の住宅基準法改正で断熱等級4が義務化されますが、2030年にはさらにその水準が引き上げられ、断熱等級5が最低基準になる予定となっています。
そのためもし今、断熱等級4の家を建ててしまうと、5~6年後にはすでに『時代遅れ』の家になってしまう恐れがあるということです。
将来的に家の売却を検討している人ほど、断熱性能をなるべく高めて、家の資産価値も高めるべきなのです。
3.快適性で考える
どのくらいの室温が快適かは、人によって異なります。
しかしそれはあくまでも『体感』なので、感覚を共有化するのは難しい。
そのため「PMV(Predicted Mean Vote)」を使って、快適性を数値化(見える化)しましょう。

グラフの横軸が「PMV」で快適性を示します。つまりPMVが0の場合、ほとんどの人が暑さも寒さも感じない、もっとも快適な状態ということになります。
そして縦軸の「PPD」は、そのPMV下でどのくらいの人が不快に感じるかを表します。例えばPMVが2.0の場合、およそ80%の人がその環境を不快に感じる、というわけです。
PMVは温度、湿度、熱放射、気流、活動量、着衣量の6つの要素を計算式に当てはめることによって、数値を割り出すことができます。
(参照:http://ds0.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~fukuyo/pmv-calculation.html)
着衣量はパジャマを着ているのか、セーターを着ているのか、活動量もソファに寝転がっているのか、掃除機をかけているのかといった点で数値も変わってきます。
この計算式を使うと、例えばパジャマでソファに寝転がっている状況で快適に過ごすには、気密と湿度がしっかりされている状況でも、室温は23.0℃に保つ必要があることが分かるわけです。
断熱等級7の家がおおむね冬の室温が15~16℃を下回らないとされていますから、室温23℃を保つというのは決して簡単なことではありません。
もちろん足りない分は空調で補うわけですが、例えばクライアントがパジャマではなく、家の中で厚着して過ごすことも厭わないというのであれば、話も変わってくるわけです。
大切なのはこうした仕組みを利用して、客観的な数値を使った上でクライアントと検討すること。
どのくらいの室温が快適かは人によって異なるからこそ、快適性を『見える化』して、どのレベルの断熱性能にすべきかを一緒に話し合ってください。
結論としては、その家に長く住むのなら住むほど、家の資産価値を高めたいなら高めたいほど、断熱性能は上げるべき、ということになります。
しかしだからといって、コストのことを考えないわけにはいきません。
高断熱住宅のコスト
どのくらいの断熱性能にしたら良いのか?という質問の後に続くのが、「断熱性能を上げるにはどのくらいのコストがかかるんですか?」というものです。
確かに家の断熱性能を上げようとすると、どうしてもコストがかかります。
具体的にどのくらいのコスト増になるかというのは難しいのですが、一般的には断熱等級4から断熱等級6まで上げるにはおよそ60万円、断熱等級7にまで上げるには300万円ほどのコストがかかると言われています。
私たちエージェントに求められているのは、そのコストをどのくらい下げられるかということ。もちろん、品質を落とさずにコストを下げるということです。
予算内で家の断熱性能を上げる(つまりコストを下げるということ)には、いくつかの方法が考えられます。
・家のデザインをシンプルにする
・設備よりも性能を優先させる
・コスパの良い工法や建材を選択する
・その他
特に注文住宅の場合、クライアントはどうしても凝ったデザインを求めがちです。
その気持ちはよく分かるのですが、予算が限られている場合、なるべくシンプルなデザインにすることによって全体的なコストを下げることが可能です。
上でも説明しましたが、高断熱住宅において、いかに冬の日差しを取り入れ、逆に夏の日差しを遮るかという「パッシブデザイン」は非常に重要。
そのパッシブデザインを第一にして設計すると、その土地に合った最適な家のデザインはある程度決まってきます。
それを無視して凝ったデザインにしてしまうとコストが上がるだけではなく、断熱性能にも影響が及びます。
クライアントの希望は尊重しつつ、シンプルなデザインの優位性を理解できるように助けてください。
家の断熱性能は目に見えないため、そこにコストをかけるよりも、キッチンやお風呂などの設備にコストをかけたい!というクライアントがいるとしても無理はありません。
しかし設備と性能を天秤にかければ、性能の方を優先させるほうが賢明。
設備は後からでも変更可能ですが、性能はそういうわけにはいかないからです。
もちろんクライアントがどうしても叶えたいキッチンやお風呂のカタチというのもあるでしょうし、それを実現させることも私たちの仕事です。
ただしその場合も、家の設備は後からでも変更可能だが性能はそういうわけにはいかない、ということをしっかりとご理解いただき、納得した上でクライアントが決定できるように助けてあげましょう。
不動産エージェントとして、コスパの良い工法や建材については普段から勉強している人も多いと思います。
例えば断熱材ひとつ取っても、加工しやすいボード系の断熱材と施行の難易度が上がるグラスウールでは、同じ断熱性能でも値段は約4倍もの差が出てきます。
ほかにも断熱でいえば「現場発泡ウレタン」という工法もありますし、駆体を工場で作ってしまう「大型パネル」という方法もあります。
ぜひコスパの良い高断熱の家づくりができるように、研鑽を積むのを怠らないようにしましょう。
その他にも、コストダウンに関する自分なりのノウハウをお持ちのはずです。
そうしたことをフルに活用して、予算内で高断熱住宅が建てられるようにプランニングしてください。
クライアントの望む幸せな暮らしを実現させるのはもちろんのこと、エージェントとしての自分自身の価値を高めることにもなるでしょう。
断熱性能を高めるための優先順位
高断熱リフォームを希望されるクライントからよく尋ねられるのが、「どこから手を付けたら良いでしょうか?」というものです。
あなたはその質問に正しく答えられますか?
高断熱リフォームを施す際の優先順位は、以下のとおりです。
【高断熱リフォームの優先順位】
1.窓
2.屋根
3.床
4.気密
1.窓
室温に最も影響を与えるのが、窓です。
冬は家の中から外へ流出する熱の約50%が、そして夏は外から室内へ流入する熱の74%が窓から移動するからです。
この熱の移動をいかに遮るか。
窓枠自体を替えるのは大変なので、内窓を取り付けるのがコスパ的にも性能面でもおすすめです。
その際にはガラスは複合ガラスにして、サッシは必ず樹脂サッシにしましょう。
日本で一般的に使われているアルミサッシは断熱性で考えると、選択肢には入りえません。実際に世界的に見ても、断熱性能が低いアルミサッシがこれほど普及しているのは日本くらいです。
また自治体によっては、内窓の設置に関して補助金を出しているところもあります。
エージェントとしてはそうした知識もしっかりアップデートして、クライアントを助けられるようにしたいものです。
2.屋根
「断熱=断熱材」と考える人は多いと思います。
確かにそれは間違いではないのですが、屋根の断熱材にまで気を配っているでしょうか?
屋根は太陽の日差しを壁よりも多く受けるため、夏の表面温度は壁の2倍近くにまで上がります。
逆に冬は放射冷却現象で屋根から熱が逃げていくため、壁よりも多くの断熱材が必要なのです。
ところが工務店によっては、屋根にも壁と同じ厚さの断熱材しか施行しないところも少なくありません。
そのため、高断熱リフォームの際には屋根の断熱にも手を入れるべきなのです。
もし断熱材が足りていないなら、必要な分の断熱材を屋根にも施工する。その際にも性能やコスト面を考えて、現場発泡ウレタン工法などのその家にあった最適な方法を採用できるよう、しっかりとした知識を取り入れておいてください。
3.床
暖められた空気は上に上がります。
その反作用で冷たい空気が下から引っ張り上げられるため、床にもしっかりとした断熱リフォームを施す必要があります。
床を断熱化するというと、安易に床暖房を入れようと考える人もいますが、基礎の立ち上がりの内側に断熱材を施工する基礎内断熱で十分です。さらに現場発泡ウレタン工法が取り入れられるならコストも抑えられるため、ぜひコスパの良い断熱リフォームを提案できるようにしておきましょう。
4.気密
家の気密性と断熱性能は密接に関連しています。
どれだけ断熱性能を上げようとしても、気密が低ければその効果も薄くなります。外から空気が侵入すると室温を一定に保つのは難しいというのは、子どもでも分かる道理ではないでしょうか。
実は内窓を取り付け、屋根と床の断熱施行をしっかり施せば、それだけである程度の気密性は保たれます。
ただしその場合も、気密の重要性をしっかりと理解して施行してくれる業者にお願いすることが大前提。
そのため普段から、しっかりとした業者さんとの付き合いを大切にしておきましょう。
クライアントが業者さんの良し悪しを見分けるのは難しい。クライアントが頼るのはエージェントなのですから、その信頼に応えられるようにしておきたいですね。
まとめ
日本でもこれから高断熱住宅が家づくりのスタンダードとなっていくでしょう。
そのため私たち不動産エージェントも高断熱住宅についてのしっかりとした知識を取り入れ、クライアントの要求にも対応できるようでなければなりません。
断熱性能に疎い不動産エージェントは顧客からも見放されていく、ということを肝に銘じてください。
私自身も知識をアップデートして、大切な情報をこれからも発信していきたいと考えています。
ぜひ一緒に、「断熱新時代」を乗り越えていきましょう!
この記事を書いた人
不動産エージェント 藤木 賀子

スタイルオブ東京(株)代表。
25歳で建築業界に入り、住宅・店舗・事務所・外構の営業・設計から施工まですべてを経験。
世界の建築に興味があり、アジア・北米を中心に建築を見て回り、いい家を追求すべく世界の家を研究。結果、いい家とは『お客様の価値観』にあることに気づき、自分が作るよりお客様の代理人としてお客様の想いを可視化・具現化・実現化することが出来る不動産プロデュースの道に。
これまでの経験とスキルを、不動産エージェントとして活躍したい人に向けて発信中。
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