クライアントの本当の願いを引き出すためのヒアリング術

不動産エージェントの役割りは、クライアントが望む幸せな暮らしを実現させること。
そのために重要なのが、「ヒアリング」。つまり、質問によって相手の考えや願いを引き出すことです。

ヒアリングが重要なのはなぜか?

ヒアリングが重要なのはなぜでしょうか?
不動産エージェントがクライアントの願いを実現させるには、彼らが本当に望んでいる「コト」を引き出さなければなりません。
しかし、それは言うほど簡単なことではありません。

不動産という人生で一番大きな買い物をするときには、人は平常心ではいられなくなります。また家族構成や年収、予算などの普段あまり聞かれないことを質問されるため、口ごもってしまうこともあるでしょう。
また不動産取引に慣れていないため、クライアント自身も自分が本当に望んでいるのは何か?ということをしっかりと掴んでいない人も多いのです。

そのため、適切なヒアリングによってクライアントの本当の望みや願いを引き出して、それを共通理解とすることが不可欠なのです。

では、クライアントの本当の願いを引き出すヒアリング術とはどういうものでしょうか?
今回はそのための3つの方法を紹介します。

相手の懐に飛び込むためのタイプ別アプローチ
「5W2H」を使ったヒアリング
相手に伝わりやすい話し方

ではこの点を一つずつ、一緒に見ていきましょう。

ヒアリングの前の自己アピール

ヒアリングの前に、不動産エージェントとしての自分自身をしっかりとクライアントに紹介(アピール)しなければなりません。
信用していない人に自分の本当の望みを打ち明ける人はいないからです。
そのため、まずはしっかりとした自己アピールによってクライアントの信頼を勝ち取らなければなりません。

第一印象を大切に!

自己アピールで一番大事なのは、第一印象。
よく「人は見かけによらない」と言いますが、ビジネスにおいては見た目・第一印象が非常に重要です。

人間が相手の行動にどれほど影響されるかは、話の内容などの言語情報が7%、声の大きさや話すスピードなどの聴覚情報が38%、そして見た目などの視覚情報が55%と言われています。これを「メラビアンの法則」といいます。
メラビアンの法則は矛盾したメッセージを伝えられたときの人間の受け止め方について調査したものであり、よく言われているような「話の内容よりも話し方や見た目のほうが重要」というものではありません。
実際これから考えていきますが、やはり何をどのように話すかは非常に重要。
とは言え、相手に良い印象を与えるために見た目が大切であることに変わりはないのです。

そのため、まずは不動産エージェントとしての自分の身だしなみや振る舞い方を常に意識しておきましょう。

身だしなみの基本はやはり清潔感。
そして不動産エージェントとしての、「プロフェッショナルらしい」身繕いが求められます。
ブランド物で身を固める必要はありませんが、外見がしっかりしていれば、クライアントもこちらのことをプロとして認めてくれるでしょう。

清潔感とプロらしい身繕いに加えて、見た目によって自分がどういうエージェントなのかがクライアントに伝わると最高です。
不動産エージェントはクライアントを選ぶこともできますから、自分と感性や価値観が全く異なる人を顧客にする必要もありません。また、クライアントにとってもそれは同じでしょう。
例えば、サーフィンが大好きでサーフィンのための物件を探しているというクライアントの目の前に、スーツをキッチリ着こなしてスキも全く無いエージェントが現れたらどう思うでしょうか?逆にちょっと日焼けしていて、服装も少しだけラフなエージェントが「自分もサーフィンやるんです!」と伝えたら、一気に話も弾むと思いませんか?
これは極端な例かもしれませんが、見た目によって自分がどんなクライアントに好かれたいのかを表現する。それを一つのミッションと考えて、自分を演出してみましょう。

このように見た目でクライアントに良い印象を植え付けた上で、話し方や言葉遣いなどでさらに相手の信頼を勝ち得ていきます。
その際に意識してもらいたいのが、クライアントがどんなタイプの人なのかを見極めるということです。

本当の願いを引き出すヒアリング術①:相手の懐に飛び込むためのタイプ別アプローチ

自己紹介のあと、いよいよクライアントへのヒアリングを始めます。

ヒアリングの目的は、クライアントの本音を引き出すこと。
どんな物件が欲しいのか、なぜそれが必要なのか?
彼らが求める幸せな暮らしを実現するために、クライアントの希望を聞き出します。

しかし、いくらこちらがプロの不動産エージェントととはいえ、出会ったばかりの人に全ての情報をさらけ出す人はそう多くはありません。
不動産取引には予算や家族構成などのセンシティブな情報も必要ですし、そもそも不動産に関してしっかりとしたビジョンを持っている人も多くはないからです。

そのため、ヒアリングを始める際にはにはクライアントの懐に飛び込み、何でも聞ける・話せる関係を構築しなければなりません。
そのために気をつけたいのが、アプローチの仕方。
つまり、そのクライアントにどうやって接するかです。

アプローチの仕方は一律であってはなりません。
強気な営業が苦手という人と、購入意欲の高い人では自ずとアプローチ方法も異なるからです。

相手のことをよく考えて、その人に一番あった接し方を試みるのが大切。
そのために、クライアントがどういうタイプの人かを見た目や物腰などから想像してみましょう。

例えば、以下の4つのタイプに分類することができます。

コントローラー・タイプ
アナライザー・タイプ
プロモーター・タイプ
サポーター・タイプ

ではそれぞれのタイプの特徴と、その接し方について見ていきましょう。

コントローラー・タイプ

コントローラー・タイプは、周りの人や物事を支配したいという傾向が見られます。

【コントローラー・タイプの特徴】

行動的、野心的、エネルギッシュ
自分の思い通りに物事を行うのを好む
決断力がある
決定までのスピードが早い
人を寄せ付けない印象がある
優しい感情を表すことが苦手

【コントローラー・タイプへの接し方】

質問の仕方:質問する理由を伝え、回りくどい質問は避ける
承認の仕方:過度なほめ言葉はNG。リーダーシップや行動力を承認する
提案の仕方:短く、簡潔に、要点をストレートにしっかり伝える
ポイント:指示や命令、コントロールするかのような言動を避ける

コントローラー・タイプのクライアントには、単刀直入な話し方を心がけましょう。
回りくどい話し方は嫌われてしまいますので、シンプルかつ要点をしっかりついたヒアリングを行ってください。
相手の話を否定するのではなく、敬意を払いながら相手のペースに合わせるのも大切。言葉は若干きつく感じるかもしれませんが、決断も早いという良い側面もあるので、プラスの面に注意を向けましょう。

アナライザー・タイプ

アナライザー・タイプの人は物事をよく分析し、計算高いという特徴があります。

【アナライザー・タイプの特徴】

慎重に行動する
データを集めて分析して取り組む
計画を立てるのが好き
客観的で冷静
対人関係では頑固、真面目と言われることが多い
他人を批判することは好まない

【アナライザー・タイプへの接し方】

質問の仕方:質問する時は具体的にし、答えを急がない
承認の仕方:抽象的な承認は機能しないため、具体的、論理的に。「戦略」や「知性」を承認する
提案の仕方:内容や目的、段取りなどについて事前に十分な説明が必要
ポイント:急激かつ大きな変化を求めない傾向が強いため、相手のペースで進めていく

クライアントがアナライザー・タイプの場合は、まずはしっかりとした自己紹介で信頼を築く努力がとりわけ重要です。ヒアリング時にも個人情報開示の書類にサインを頂くぐらいの慎重さが、相手の信頼を勝ち得るでしょう。
質問するときにはいきあたりばったりではなく、目的や段取りをハッキリと示してください。一度しっかりとした信頼関係を培えば、アナライザー・タイプのクライアントとはその後のやり取りがとても楽になります。

プロモーター・タイプ

前向きにどんどん物事を進めていくのが、プロモーター・タイプの人たちです。

【プロモーター・タイプの特徴】

アイディアが豊富で想像力もある
人と活気のあることをするのが好き
細かいことをあまり気にしない
飽きっぽい
社交的でオープン
よく話して、あまり聞かない

【プロモーター・タイプへの接し方】

質問の仕方:矢継ぎ早に尋ねるのではなく、自由に発想できる環境を与える
承認の仕方:「さすが!」や「すごい!」など少しオーバーに、回数も多く。アイディアや社交性を承認する
提案の仕方:こちら主導ではなく、相手のアイディアや希望をできる限り尊重する
ポイント:相手の話を遮ったり、否定したりしない。自由に話させてその中から本心を汲み取る

プロモーター・タイプのクライアントは自分で物事を決定したいため、ヒアリング時にも相手の話を遮ったりせずに、自由に話させるのが得策です。細かなデータよりもノリや勢いを重視する傾向があるため、楽しい雰囲気を保つことを心がけましょう。
ただしヒアリング時には話が盛り上がっても、大切なところを覚えていないということもありがちなので、話し合ったことをまとめて相手と理解点を共有するという手段も効果的です。

サポーター・タイプ

協調性が高いものの、優柔不断でなかなか結論を下せないのが、サポーター・タイプの特徴です。

【サポーター・タイプの特徴】

人助けやサポートすることが好き
協調性が高く、意欲も強い
決断には時間がかかる
感情に基づいて判断する
他者の気持ちに敏感
ノーと言えない

【サポーター・タイプへの接し方】

質問の仕方:リラックスした雰囲気をつくり、高圧的な印象を与えないように注意する
承認の仕方:他人から後押しされることを好むため、こちらから積極的に承認していく
提案の仕方:基本的にノーと言えないため、表情や態度を読み取りながら提案していく
ポイント:話しやすいタイプのため、逆に威圧的にならないように注意が必要

協調性の高いサポーター・タイプは話し好きの人が多いため、自己紹介をしっかりとするというよりも「今日の目的は〇〇ですか?」というふうに相手に話を振ってあげても良いでしょう。
雑談好きではありますが、一方でなかなか本音を述べてくれないという傾向もあるため、その都度ヒアリングを重ねて真意を確認してください。

ヒアリングの目的は相手の本音を引き出すことです。
そのために、最初の出会いから自己紹介の間までに相手がどんなタイプの人間なのか?想像力を働かせてしっかりと見極めましょう。

タイプに合わせたアプローチを行えば、クライアントも心を開いてくれるに違いありません。
なにしろ、そもそも相手はこちらを頼ってきているのですから。
本格的なヒアリングの前に、まずはクライアントが気持ちよく話してくれる環境を整えることに気を配りましょう。

本当の願いを引き出すヒアリング術②「5W2H」を使ったヒアリング

タイプ別のアプローチによってクライアントの懐に飛び込んだら、いよいよ本格的なヒアリングのスタートです。
ヒアリングには「5W2H」を使いましょう。

5W2Hについては、「単なるコミュニケーションにあらず!不動産フリーエージェントに求められる「対話力」とは? | ワタシゴト」でも取り上げましたが、改めて説明します。

Why(なぜ)
What(なにを)
Who(だれが)
When(いつ)
Where(どこで)
How much(いくら)
How to manage(どのように)

この「5W2H」を使って、ヒアリングしていきます。

なぜ不動産取引を希望しているのか?
どんな物件を求めているのか?
誰が住むのか?
いつまでに購入・売却したいのか?
どこに住みたいのか?
予算はいくらか?
購入方法は?

こうした質問によって、クライアントの本当の願いを引き出していきます。

5W2Hのヒアリングには順番が大事!

しかし、ただ単に5W2Hを使ってヒアリングをすれば良い、というわけではありません。
質問の順番も重要です。

不動産取引のためのヒアリングには、個人情報の聞き取りが不可欠となります。
そのため、家族構成や予算などのセンシティブな事柄を尋ねるタイミングにも注意を払いましょう。

例えば、どこに住みたいか?戸建てかマンションか?広さはどのくらいのものを希望しているか、といった事柄は質問する方も答える方もあまり気を使わないでしょう。
しかし、誰と住むのか?同居するほかの家族はいるのか?予算は誰がどこまで負担するのか、といった事柄は慎重に訪ねていかなければなりません。なぜなら、そこには裏の事情が隠されている場合も多いからです。
表面的な事情だけでは分からない本音の部分を引き出すために必要なのが、5W2Hにさらに「Why?」を重ねるヒアリングです。

5W2HにWhy?を重ねよう!

ただ単に5W2Hを使ったヒアリングだけでは表面的な事柄しか分からず、クライアントの本当の願いを引き出すことはできません。
不動産はあくまでもクライアントの幸せな生活を実現させるための「手段」に過ぎませんから、クライアントが「なぜ」その条件を出してきたのかを探っていかなければならないのです。

例えば、クライアントが「〇〇に住みたい」、「予算は〇〇」でと条件を出してきたとします。
その「Wher(どこに)」、「How much(いくら)」のヒアリングの答えに「Why?」をかぶせていくのです。
「その場所になにか思い入れがおありですか?」、つまりやんわりと『なぜその場所にこだわるの?』と聞いてみると、実はその場所は奥さんの実家のすぐ近くで、退職間際の奥さんのお父様が建設資金を援助すると言っている。ご主人の実家は遠く離れていて、本人も帰るつもりはない、ということなどの「裏の事情」が分かってくることも多いのです。

こうしたクライアントの本当の事情、願っている事柄はどんな物件を紹介するかに直接関わってきます。
そのため、ただ単に5W2Hを使ったヒアリングだけではなく、そこにさらに「なぜ?」を重ねていくのです。

なぜ戸建てなのか?
なぜその予算なのか?
なぜその場所なのか?
なぜこのタイミングなのか?
etc…

こうした「Why?」を重ねた質問によって、クライアントが本当に願っている幸せな暮らしがどんなものなのかを引き出していくことが非常に重要なのです。

本当の願いを引き出すヒアリング術③:相手に伝わりやすい話し方

5W2HにWhy?を重ねる質問である程度のクライアントの希望が分かってきたら、次はこちらの提案を伝えます。
これは最終的な提示やクロージングというものではなく、さらに相手の願いや希望を引き出すためのたたき台と考えてください。

そのときにもただこちらの話を述べるのではなく、その伝え方が重要になってきます。
人は話の内容そのものよりも、その人の話し方や伝え方により大きく心を動かされるからです。

話を伝えやすくするための「テンプレップの法則」

クライアントにこちらの話を分かりやすく伝えるには、正しい順番で話していくことが大切。
この話し方を「TNPREP(テンプレップ)の法則」といいます。

つまり…

T(テーマ):何を話すか
N(ナンバー):いくつのポイントがあるか
P(ポイント):話の要点
R(リーズン):理由、要点の裏付け
E(イグザンプル):具体例
P(ポイント):最後の話の結び、結論

この順番を常に意識して、話を進めていきましょう。

例えば、クライアントが来年の3月に不動産を購入したい、それは子どもが小学校に入学するから、という希望を出してきたときには…

分かりました。それでは1年後という時期について少しお話させていただきます(テーマ)。
考えていただきたい一つの点があります(ナンバー)。
それは、決断はなるべく早いほうが良いということです(ポイント)。
なぜなら、不動産はちょうどその時期に良い物件があるとは限らないからです(リーズン)。
例えば、新築建売の場合は1月までに決めれば十分に間に合いますが、気に入られた物件が中古でリノベーションが必要な場合、さらに半年必要となります。もし新築で建てるなら、来月には土地を契約しなければなりません(イグザンプル)。
ですから、なるべく早く決断しましょう。まだ1年ありますので、まずは土地、新築、中古の戸建すべての条件から考えていきませんか?(ポイント)

どうですか?自分がクライアントだったらと考えてみて、このように提案されたら「なるほど、その通りだ。もう少しじっくり考えてみよう」と思われるのではないでしょうか?

何度も言いますが、不動産フリーエージェントの仕事は単に不動産取引の手助けをすることではなく、クライアントの幸せな暮らしをかなえてあげることです。
そのため、ヒアリングの段階で気になる点があればテンプレップの法則を用いて提案をしてください。その目的は相手を説得することではなく、クライントも気がついていなかった本当の願い・希望を引き出して上げることです。

ここまでできたらクライアントの信頼を勝ち得ているはずなので、もう一度5W2H、そしてさらにWhy?を重ねていくことで、さらに深いヒアリングを行えるようになるでしょう。

まとめ

不動産エージェントの役割はクライアントの願いを形にすること。
そのためには正しいヒアリングによって、彼らの本当に望んでいるものを見極めなければなりません。

今回紹介したヒアリングのための3つの方法

相手の懐に飛び込むためのタイプ別アプローチ
「5W2H」を使ったヒアリング
相手に伝わりやすい話し方

これをぜひ実践して、クライアントさえ自覚していなかったかもしれない、本当の願い、彼らにとっての幸せな「コト」を引き出してあげてください。

適切なヒアリングによってどんな物件を紹介したら良いか見えてきたら、いよいよそれをクライアントに提示して契約へと進めていきます。
次回はその「クロージング」についてお話しましょう。








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この記事を書いた人

不動産エージェント 藤木 賀子

スタイルオブ東京(株)代表。
25歳で建築業界に入り、住宅・店舗・事務所・外構の営業・設計から施工まですべてを経験。
世界の建築に興味があり、アジア・北米を中心に建築を見て回り、いい家を追求すべく世界の家を研究。結果、いい家とは『お客様の価値観』にあることに気づき、自分が作るよりお客様の代理人としてお客様の想いを可視化・具現化・実現化することが出来る不動産プロデュースの道に。
これまでの経験とスキルを、不動産エージェントとして活躍したい人に向けて発信中。






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