不動産エージェントが知っておくべき「建物状況調査」と「インスペクション」の違いならびに瑕疵保険との関係性とは?

2018年に宅地建物取引業法が改正され、新たに「建物状況調査」の有無を記入することが盛り込まれました。

この改正は、中古物件取引の活性化を目指す政府の取り組みの一貫。

売買の前に中古物件の現状を確認することによって、修繕の必要性の有無やその費用などを見積もり、適切なアドバイスを行えるようになります。

中古物件の売買が盛んな欧米では、中古住宅の購入時に建物調査(インスペクション)を専門家(インスペクター)が行うのが一般的。建物調査を行うことによって、安心して中古物件の取り引きができるわけです。

日本でも実は法改正以前から、インスペクションは行われていました。しかし2018年の法改正で建物状況調査が規定されたことによって、逆に建物状況調査とインスペクションの違いについて少し混乱が生じているように思います。

そのため今回は、建物状況調査とインスペクションの違い、そしてそれが中古物件取引で重要な瑕疵保険にどのような影響を及ぼすのか?といった点を、不動産エージェント目線で分析していきたいと思います。

そもそも建物状況調査とは?

国土交通省では、建物状況調査を次のように説明しています。

「国土交通省の定める講習を修了した建築士が、 建物の基礎、 外壁など建物の構造耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防止する部分に生じているひび割れ、 雨漏り等の劣化不具合の状況を把握するための調査」

https://www.mlit.go.jp/common/001219900.pdf

中古物件は建物のコンディションがそれぞれ異なるため、取り引きの前に建物の基礎や構造部分、雨漏りの有無などを確認することが重要となります。

それを国土交通省が定めた講習を終了した建築士によって行うのが、建物状況調査というわけです。

なぜ建物状況調査が必要か?

では、わざわざ法改正をしてまでこの建物状況調査を導入したのはどんな理由からでしょうか?

建物状況調査が必要なのは、以下の3つの理由が挙げられます。

・建物状況調査の必要性①:リスクヘッジ

建物状況調査を行うかどうかは、あくまで任意です。しかし建物状況調査によって、中古住宅のコンディションを客観的に把握でき、スムーズな取り引きが可能となります。

買主側としては中古物件を安心して購入することができますし、修繕箇所があらかじめ明確になることで購入後のリフォームの予算や計画も立てやすくなります。

また売主側としても、売却後のリスクやトラブルを回避できるというメリットは非常に大きいでしょう。

売り主・買い主の双方にとってベストな不動産取引を斡旋する不動産エージェントにとって、建物状況調査はリスクヘッジという観点からも有効な手段なのです。

・建物状況調査の必要性②:重要事項説明への記入

重要事項説明に、新たに建物状況調査を行ったかどうかを記載することが求められるようになりました。

そのため、不動産エージェントが中古物件を売買しようとしたときには、まず売主に建物状況調査を行うかどうかを確認する必要があります。

その結果、建物に何らかの不具合があればその点ももちろん報告書に記載されます。

建物状況調査を実施したかどうかは公表しなければならず、調査結果が悪いから告知するのをやめるというようなことはできません。

そのため、積極的に建物状況調査を行おうという売り主は少ないのが現状です。

しかし契約不適合責任を免責にしない限り、建物の引き渡しから3ヶ月は売り主が瑕疵の責任を負うわけですから、あらかじめ建物状況調査を行うことがベターと考えます。

・建物状況調査の必要性:空き家問題の解決

日本では空き家が増え続け、大きな社会問題となりつつあります。

その空き家をどのように活用すべきか?欧米のように中古物件の取り引きをもっとメジャーにできないか?ということで導入されたのが、建物状況調査。

専門家によってしっかりチェックされた物件なら、中古でも安心して購入できますし、取り引き後に構造耐力上の主要な部分に欠陥が見つかったり、雨漏りが発生した場合でも一定の保証を受けることができます。

これまで「家を買う」と言えば新築のことでしたが、こうした取り組みによって、「程度の良い中古物件を購入する」、または「中古物件をリフォームして住む」ということが、日本でももっと当たり前になっていくでしょう。

このように建物状況調査は、中古不動産取引において売り主・買い主双方にとって望ましい手法です。

しかし問題なのが、建物状況調査とインスペクションが混同されがちだということです。

建物状況調査とインスペクションの違い

建物状況調査とインスペクションがよく混同されてしまうのは、国土交通省にも責任があると考えます。

というのも、上で参照したPDFファイルを開いて見ていただけるとよく分かるのですが、冒頭で「建物状況調査(インスペクション)を活用しませんか?」と銘打っているため、「建物状況調査=インスペクション」と勘違いしてしまいがちなのです。

しかし建物状況調査とインスペクションには、明確に異なる点があります。

<建物状況調査>

  • 宅建業法において定められた基準に基づいた検査
  • 調査範囲、調査項目、調査方法などが法律によって定められている。
  • 調査項目はおおよそ40程度

<インスペクション>

  • 住宅に施す検査全般を指す
  • 調査範囲、調査項目、調査方法などは各社によって異なる
  • 調査項目は100に及ぶこともある

インスペクションはあくまでも民間企業が行う建物の調査であるため、業者によって内容や基準が異なります。

それを法律によって制度化し、有資格者によって統一の基準で行われるのが、建物状況調査。

建物状況調査は国が制定した、インスペクションの一種と考えると分かりやすいでしょう。

建物状況調査と瑕疵保険の関係性

不動産エージェントが建物状況調査とインスペクションの違いをしっかりと認識していなければならないのは、瑕疵(かし)保険にも関係するからです。

<瑕疵保険とは?>

  • 瑕疵保険とは、住宅に瑕疵(本来あるべき性能や品質を持っていないこと)があった場合に、事業者が負担する保証責任をカバーする保険のこと。住宅の購入者ではなく、事業者が加入し、住宅に欠陥が見つかった場合の補修などを行った事業者に保険金が支払われる。

中古住宅を購入した場合には、通常3ヶ月の瑕疵担保が保証されます。つまり建物の引き渡しから3ヶ月以内に重大な欠点が見つかった場合、売主側の責任として補修を依頼することができます。

しかし最近は豪雨などで3ヶ月が過ぎた後に雨漏りが見つかることも多いため、私は中古物件の購入者には瑕疵保険に加入することを強く勧めています。

その瑕疵保険に加入するには、事前に建物の検査を行わなければなりません。医療保険に加入する前に、被保険者の健康状態を確認するのと同じですね。




では、その検査は建物状況調査とインスペクション、どちらでしょうか?


これが実は国交省の定めた建物状況調査ではなく、事業者が独自に行うインスペクションなのです。

瑕疵保険は、それぞれの保険会社(国交省が指定した住宅瑕疵担保責任保険法人)が定めたインスペクションをクリアすることによって、加入することができます。

そのため瑕疵保険への加入を検討する際には、その建物の状況調査がどんな方法で行われたかを確認しなければならないのです。売主側が国交省の基準に基づく建物状況調査を行っていても、買主側が瑕疵保険への加入を希望する場合、改めてインスペクションを行う必要があるというわけ。

しかし、もし売り主が行った建物状況調査が瑕疵保険法人に登録している検査事業者によって行われ、かつその調査方法が瑕疵保険に必要なインスペクションと同等のものであった場合、その建物状況調査の結果を元に瑕疵保険への加入申請を行うことが可能となります。

ちょっと分かりづらいですね。

つまり、こういうことです。

  • 重要事項説明に必要な検査:建物状況調査
  • 瑕疵保険加入に必要な検査:瑕疵保険法人が定めたインスペクション
  • インスペクション事業者が行った調査が国交省の定めた建物事前調査もクリアしている場合、重要事項説明にも記入できるし、瑕疵保険の加入判断にも用いることができる

インスペクション事業者が行う検査は独自のものですが、国交省の定めた調査方法に基づいた上で、さらにそれ以上の調査を行うということも当然あるわけです。

その場合は一回の検査で済むわけですが、瑕疵保険への加入は買主側の希望であるため、売主側がわざわざインスペクションを前もって行うというの現実的ではありません。

加えて、申し込み方法によっても求められる検査が変わってくる場合があります。

例えば、当社が扱っている瑕疵保険法人のJIO(日本住宅保証検査機構)の場合、瑕疵保険の加入方法は次の二つの方法が存在します。

  1. 宅建業者が直接JIOに依頼する(https://www.jio-kensa.co.jp/insurance/kizon_jutaku_4_1/personal01.html
  2. エンドユーザー(売り主または買い主)が検査事業者を通してJIOに依頼する(https://www.jio-kensa.co.jp/insurance/kizon_jutaku_4_1/personal13_02.html

不動産取引を仲介する宅建業者が購入者の希望でJIOに瑕疵保険を依頼する場合、JIOがその保険引受の判断のための検査を行います(インスペクション)。そして申請が受理された場合、その被保険者は宅建業者となります。

一方でエンドユーザーが自ら瑕疵保険を申し込む場合には、検査事業者を通してJIOに依頼することになります。その際には検査事業者自身が検査を行い(インスペクション)、その結果を元にJIOが保険引受の可否を判断します。その場合、改めてJIOが調査を行うこともあれば、所定の検査報告書を作成・提出することに検査を代替し、審査されることもあります。そして被保険者は、検査事業者ということになりますね。

そのため例えば、不動産エージェントが建物状況調査済みの中古住宅を紹介して、買い主が瑕疵保険への加入を希望される場合には、改めてJIOにインスペクションを依頼しなければなりません。

一方でエンドユーザーが建物状況調査を検査事業者に依頼し、その後に瑕疵保険への加入を希望する場合は、最初に行った検査で保険審査を行うことが可能となります。

その理由は、宅建業者は検査の責任を負わないから。

宅建業者が販売する中古物件が建物状況調査済みであったとしても、その調査は目視で行うため、目で見えないものに責任を負うことはできません。

しかし瑕疵保険は目に見えない壁の中や床下への瑕疵に対しても責任を負います。そのため、保険引受人(JIOなど)が独自の基準で設けたインスペクションによって、保険引受の可否を判断することになるのです。

宅建業者が瑕疵保険のためのインスペクションをJIOに依頼した場合、その費用はおおよそ2~3万円(面積による。保険料は別途)。

一方でエンドユーザーが検査事業者を通して依頼する場合には、検査事業者の調査とJIOの調査費用がかかるため、費用は上の倍程度となります。また検査までに時間がかかってしまうこともある。中古物件の売買は買付から契約までの期間が短いことが多いため、これが案外ネックになるのです。

結論としては、中古物件の売買の際には事後のトラブルを避けるためにも、売り主の費用負担でなるべく建物状況調査を行う。そして買い主が瑕疵保険への加入を希望される場合には、費用が安くて時間もかからない宅建業者用のインスペクションを買い主負担で行う。

これが、皆にとってベストな選択だと思います。

まとめ

建物状況調査は重要事項説明にその有無の記入が義務付けられ、リスクヘッジの観点からも非常に重要な調査。中古住宅取引を売り主・買い主双方ともに安心して行うためにも、不動産エージェントとしては売主側に建物状況調査を行うことを強くすすめたいところです。

また瑕疵保険への加入の際には、行った調査が国交省の規定に基づく建物状況調査なのか、それとも保険引受人が求めているインスペクションなのか、という点をしっかり確認しなければなりません。瑕疵保険への加入は買主側の希望ですから、買主側の費用負担でインスペクションを依頼するのが無難でしょう。

日本でも今後、中古住宅物件の売買が盛んになっていくと考えられます。

それに伴い、建物状況調査の重要性もますます高まっていくでしょう。

不動産エージェントとしても建物状況調査とインスペクションの違いをしっかり理解・把握して、クライアントに役立つアドバイスができるようにしておきたいですね。






この記事を書いた人

不動産エージェント 藤木 賀子

スタイルオブ東京(株)代表。
25歳で建築業界に入り、住宅・店舗・事務所・外構の営業・設計から施工まですべてを経験。
世界の建築に興味があり、アジア・北米を中心に建築を見て回り、いい家を追求すべく世界の家を研究。結果、いい家とは『お客様の価値観』にあることに気づき、自分が作るよりお客様の代理人としてお客様の想いを可視化・具現化・実現化することが出来る不動産プロデュースの道に。
これまでの経験とスキルを、不動産エージェントとして活躍したい人に向けて発信中。






≪不動産エージェントに興味があるかたはこちらからご相談ください≫