「お金持ち営業」と「リテラシー営業」の違いに気づいていなかった業界

はじめに──
土地探しから家づくりまでをサポートするエージェントの役割

不動産エージェントにとって、「土地を買って注文住宅を建てたい」という顧客のサポートは、一般的な土地の売買とは異なるアプローチが求められます。今回はエージェントが知っておくべき建築業界で起こっているリテラシーの相違を考えてみたいと思います。

土地選びが家づくりの成功を左右する
顧客の住宅リテラシーに応じた対応が必要
施工会社・設計士との連携が求められる

土地を購入してから「思っていた家が建てられない」と後悔するケースを防ぐために、エージェントは 「土地選び」と「家づくり」の両方を見据えた提案 を行う必要があります。

不動産エージェントとして、「良い住宅会社を紹介してほしい」と顧客から依頼されることはよくあるでしょう。しかし、紹介した住宅会社の担当者とうまく意思疎通が取れず、顧客が満足しないことも少なくありません。「どこも対応がよくないから紹介したくない」と感じることもあるかもしれません。

しかし、そもそも「住宅を建てるために買う土地」である以上、住宅はお客さん任せというわけにはいかないのです。 土地と住宅はセットで考えるべきものであり、土地だけを売ればいいというスタンスでは、最終的に顧客が満足できない可能性があります。

そこで重要なのが、住宅業界の仕組みやリテラシーの違いを理解すること です。顧客のリテラシーを見極め、適切な住宅会社や担当者とマッチングさせることが、エージェントの役割の一つとも言えるでしょう。

序章:「お客様は神様」営業が生んだクレーム産業

「お客様は神様です。」

このフレーズは、日本のあらゆるサービス業に根付いています。特に住宅業界では、この考え方が営業マンの行動を長年縛り付けてきました。

  • 「お客様は神様だから、言うことは全部聞かないといけない!」
  • 「お客様の希望に100%応えます!」
  • 「お金持ちのお客様には、最高のコンシェルジュ対応を!」

こうした営業方針の結果、何が起きたでしょうか?

そう、住宅業界は 「クレーム産業」 になってしまったのです。

なぜでしょう?

答えは簡単です。「お客様の知識レベル(リテラシー)」を無視し、お金持ち度合いだけで営業してきたから です。

家づくりの知識がまったくない人も、プロ並みに詳しい人も、「お金があるかどうか」でしか分類されず、すべて同じように扱われた結果、ミスマッチが続出しました。

  • 「これは、もうちょっと説明してくれたら納得できたのに…」
  • 「言ったとおりにやってくれたけど、なんか違う!」
  • 「いや、そもそも、こっちの意図をちゃんと汲み取ってくれよ!」

こうして、クレームとトラブルのオンパレード。

では、どうすれば住宅業界は変わることができるのでしょうか?


第1章:「富裕層営業」はただのコンシェルジュではない

住宅業界の営業マンに聞くと、決まってこう言います。

「富裕層の家って、すごく細かい注文が多くて、担当者が病むんですよ…」

実際、某大手住宅メーカーの担当者が、ある富裕層顧客に振り回されすぎてメンタルをやられたという話も聞いたことがあります。

  • 「壁紙はイタリア製のものを○○色で」
  • 「床は〇〇地方の無垢材で、でも傷はつかないように加工して」
  • 「リビングの窓の幅をあと3センチ広げたい」

確かに、大変です。

でも、これって本当に 富裕層のせい なのでしょうか?

実は、富裕層の本質は 「細かい注文をしたい人」ではない のです。

彼らが求めているのは 「最適解を素早く出してくれるプロ」 です。

例えば、医者に行ったとき、患者が「この薬がいいです!」と細かく指定するでしょうか?

違いますよね。

「先生、どうすればいいですか?」とプロの判断を求めるはずです。

住宅でも同じ。

「最適な間取り、素材、設計を、スピーディーに提案できるプロ」に任せたいだけなのです。

しかし、住宅業界は「富裕層=わがままな人」と勘違いし、イエスマン営業を続けました。

結果、「お客様の言うことは全部聞く」スタイルになり、富裕層も「なんか違うな…」と不満を持ち、営業マンは疲弊し、クレーム産業になっていったのです。


第2章:2つのリテラシーが必要な時代

住宅営業において、重要なのは 「2つのリテラシー」 です。

  1. 住宅のリテラシー(家づくりに関する知識)
  2. 仕事のリテラシー(顧客が求める対応力や判断力)

住宅のリテラシーの3分類

超ハイリテラシー層(プロ並み)

  • 建築士、設計事務所勤務経験者、家を何軒も建てた経験者
  • 施工精度や素材の違いまで理解している
  • 「説明はいらない、ベストな提案をくれ」というタイプ

ミドルリテラシー層(一般的な施主より詳しい)

  • 住宅性能やデザインについて勉強している
  • ある程度の専門用語は分かるが、最終判断はプロに委ねたい
  • 「自分の考えもあるが、専門家の意見も聞きたい」というタイプ

ローリテラシー層(住宅知識ほぼゼロ)

  • 「家づくりって何から始めるの?」という状態
  • 断熱や耐震の違いもよく分からない
  • 「分かりやすく説明してほしい」というタイプ

仕事のリテラシーの3分類

仕事リテラシーが高い顧客(決断が早い)

  • 予算や優先順位を決めている
  • 必要な情報だけで即決できる
  • 「短時間で最適解を出してくれるプロ」を求める

仕事リテラシーが普通の顧客(相談しながら進めたい)

  • ある程度の決断力はあるが、比較や説明を求める
  • 営業マンと対話しながら納得して決めたい

仕事リテラシーが低い顧客(決断に時間がかかる)

  • 何を基準に選べばいいかわからない
  • すべて細かく説明を聞きたい
  • 一つの決定に長い時間を要する

この 「2つのリテラシー」を見極めずに営業をすると、ズレが生じ、トラブルの元 になります。


第3章:リテラシー営業が生き残る道

1. 顧客のリテラシーを見極める力

住宅営業において、成功するかどうかは 「顧客のリテラシーを正しく見極められるか」 にかかっています。顧客の知識レベルや判断力に応じた説明や提案ができるかどうかで、契約率やクレームの発生率は大きく変わります。

リテラシーの高い顧客は、過剰な説明を嫌う

例えば、超ハイリテラシー層の顧客に「この断熱材は○○という特性があって…」と基本的なことを長々と説明すると、

「知ってるよ、それよりも施工精度についての実績を教えてくれる?」

と冷たく返される可能性があります。彼らが求めているのは、無駄のない情報と即断即決できる環境です。むしろ、プロとしての提案を求めており、

「このケースなら、この素材がベストです。理由はAとBです。」

とシンプルに提示するほうが評価されるのです。

リテラシーの低い顧客は、わかりやすく噛み砕いた説明を求める

一方で、住宅リテラシーの低い顧客に対して、「この家のUA値は0.5です」などと専門用語を使って説明しても、

「えっ?UFOの話ですか?」

なんていうリアクションが返ってくるかもしれません。こういう場合は、

「冬でも暖房がよく効く家ですよ!」

と、実際の暮らしのイメージに落とし込んで説明することが重要です。

ポイント
顧客のリテラシーを初回のヒアリングで的確に見極め、それに応じたアプローチを選ぶ!


2. 最適解を素早く提示する力

リテラシーの高い顧客は、決断が早いです。しかし、これは「適当に決める」という意味ではありません。

彼らは「ベストな選択肢をいくつか出してくれるプロ」を求めています。

選択肢を3つに絞るテクニック

「こんな家が欲しいんだけど」と相談されたときに、

NG例:「すべて可能ですよ!ご希望に合わせます!」

と言ってしまうと、逆に困らせることになります。優秀な営業は、

選択肢A:性能重視のプラン
 (コストはやや高めだが、メンテナンスが楽)
選択肢B:コスト重視のプラン
 (リーズナブルだが、一部カスタマイズが制限される)
選択肢C:デザイン重視のプラン
 (個性的な家を建てられるが、工期が長くなる可能性あり)

と、3つに絞って提案することで、顧客は「選びやすい」と感じます。

また、富裕層の顧客に対しては、「何ができるか」ではなく、「何を省けるか」の視点も重要です。

「AとBは必須ですが、Cは省けますよ」と、優先順位を整理してあげることで、顧客の決断を助けられます。

ポイント!
情報を整理し、明確な選択肢を提示することで、意思決定をスムーズにする!


3. 言いなりにならず、プロとしてリードする力

「お客様の言うことは絶対」と考えてしまうと、プロの仕事はできません。

例えば、

「この壁紙、イタリア製の○○にしてください」

と言われたときに、

「かしこまりました!」とすぐに受け入れるのではなく、

「その壁紙は湿気の多い日本の気候ではカビが発生しやすいですが、大丈夫ですか?」

と、一歩踏み込んだ提案をするのがプロです。

富裕層の顧客ほど、こうした「本当に必要な提案」をしてくれる人を求めています。

また、医者が「患者の言う通りに薬を処方するだけの人」だったら、誰も信用しません。

住宅営業も同じで、「これはやめたほうがいい」とハッキリ言えるプロこそ、信頼されるのです。

ポイント!
「お客様の希望を叶えること」と「最適な家を提案すること」は違う!


リテラシー営業こそが、これからの住宅業界の生存戦略

今後、住宅業界で生き残るのは、「イエスマン営業」ではなく、「リテラシー営業」ができる会社です。

  • 顧客のリテラシーを見極め、適切なアプローチをする力
  • 選択肢を整理し、決断をサポートする力
  • 言いなりにならず、プロとしてリードする力

この3つの力を持った営業が、これからの住宅業界で成功する鍵を握るのです。

とはいえ、なかなか全てをもっている営業は少ない、そんな人に出会うのは難しいかもしれません。だからこそエージェントが間に入ってコミュニケーションをスムーズにしてあげることが大事なのです。あまり理解度が高くない方なら規格品のメーカーをお勧めする、こだわりが強いお客様なら、こだわりの用件定義をするなど。住宅のことを深く知らなくても、お客様のお力になれることはあります。

住宅業界だけでなく、もちろん不動産業界や他の業界でもリテラシー営業の時代!乗り遅れないようにしたいですね。









この記事を書いた人

不動産エージェント 藤木 賀子

スタイルオブ東京(株)代表。
25歳で建築業界に入り、住宅・店舗・事務所・外構の営業・設計から施工まですべてを経験。
世界の建築に興味があり、アジア・北米を中心に建築を見て回り、いい家を追求すべく世界の家を研究。結果、いい家とは『お客様の価値観』にあることに気づき、自分が作るよりお客様の代理人としてお客様の想いを可視化・具現化・実現化することが出来る不動産プロデュースの道に。
これまでの経験とスキルを、不動産エージェントとして活躍したい人に向けて発信中。


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