家の天敵であるシロアリについてどれだけ知っていますか?

不動産エージェントとして注意するポイントを解説します

先日、世田谷区にある築17年の木造戸建てのインスペクションをお願いした時のことです。

調査をお願いした検査員の方が、ふとこんなことをつぶやかれました。

「これまでいろいろ検査をしてきたけど、都内ではシロアリを見たことがなんだよね」。

その言葉を聞いて、私はハッとしました。

確かに、私も不動産エージェントとして都内の物件を多く扱ってきましたが、シロアリ駆除に関しての相談を受けたり、シロアリの被害に遭った物件に出会ったことはありません。

しかし、ですよ?

シロアリは全国どこにでもいるはずです。

実際に国交省の調査によると、築25年以上の建物においては5軒に1軒の割合でシロアリの被害を受けているんだとか。

東京都内だけシロアリがいないわけはありませんし、シロアリ駆除に力を入れている家が多いという印象も受けません。

ではなぜ、都内でほとんどシロアリを見かけることはないのか?

気になったのでシロアリの専門家に話を伺ってみるととても興味深く、不動産エージェントとしても非常に参考になる内容でしたので、皆さんにもご紹介したいと思います。

シロアリによる被害の実態

まずはじめに、シロアリによって家屋がどのくらいの被害を受けるのか、という点をおさらいしておきましょう。

シロアリは床束や土台外壁の内側など、家の下地部分を食い荒らすため、初期のシロアリ被害を目視で発見することが非常に困難。

被害がさらに進むと床がぶかぶかになったり、お風呂やトイレなどの水回り部分の木枠などへのダメージが確認できるようになります。

シロアリは家の主要構造材を破壊するため、耐震性能にも非常に大きなダメージを与えます。実際に阪神淡路大震災で倒壊した家の多くは、シロアリによる被害を受けていたと報告されています。

シロアリは文字通り家にとっての「天敵」ですが、不動産エージェントとしてその問題に直接取り組む機会はそれほど多くない。

というのも新築時には建築会社が主導して薬剤処理を行いますし、その後のケアはあくまでも家の所有者に任されるからです。

とはいえ、最近は中古物件の売買やリフォーム・リノベーション案件も増えていますし、それにともなって顧客からシロアリ対策についての相談を受けるケースも少なくないでしょう。

そのためやはり、不動産エージェントとしてもシロアリ問題に正面から向き合わないといけないのです。

日本に生息するシロアリの種類

では、ここからが本番。

しっかりとしたシロアリ対策を講じるには、まず敵の正体を知っておくことが肝要です。

専門家から話を伺って私も初めて知って驚いたのですが、シロアリは実はアリではないんだそうです。

見た目が似ているので「シロアリ」と名前がつけられていますが、実はゴキブリの仲間で、世界には約2,900種類が、そして日本には23種類のシロアリが生息しているそうです。

その日本に生息するシロアリの中で、家屋に被害をもたらすシロアリが次の2種類。

  • ヤマトシロアリ:北海道北部を除く日本全土に生息
  • イエシロアリ:千葉県の一部と西日本にかけての海岸制沿いなど、主に温暖な地域に生息

そしてこのヤマトシロアリとイエシロアリでは、生態や特徴が大きく異るのです。

ヤマトシロアリの特徴

ヤマトシロアリは日本中に生息していますが、普段は土の中にいて、私たちが実際に目にすることはほとんどありません。

というのも、ヤマトシロアリは乾燥にとても弱い。

自分自身で水分を保持することができないので、外に出るとすぐに干乾びてしまうんだそうです。

そのため、普段ヤマトシロアリが潜伏しているのは地面に近い床下やキッチンなどの、湿気がある場所。

この乾燥に弱いという特徴が、都内でシロアリをほとんど見かけない大きな理由となっています。

今回扱った物件もそうでしたが、都内の戸建ての住宅はベタ基礎にしているものがほとんど。

床下全体を鉄筋コンクリートで覆うため、ヤマトシロアリが地下から上がってこようとしても上がってこられません。さらに外から侵入しようとしても日光にあたるとすぐに干乾びて死んでしまうため、家の中まで侵入できないというわけです。

イエシロアリの特徴

イエシロアリは生息エリアこそ限られていますが、家屋への被害の大きさはヤマトシロアリを上回ります。

イエシロアリはヤマトシロアリと違って自分で水分を蓄えることができるため、活動できるエリアが非常に広い。

固定の巣を中心に行動範囲を広げていくため、建物全体がイエシロアリの被害に遭ってしまうということも珍しくないのです。

沖縄は台風対策のためコンクリート住宅が多かったのですが、最近では施工技術の進歩で木造住宅もだいぶ増えてきました。

そうすると心配なのが、やはりイエシロアリです。柱全体にシロアリ駆除薬剤を散布し、シロアリに備えると聞いています。

イエシロアリは低温に弱いため、もともと日本ではごく一部の地域にしか生息していませんでした。しかし最近の温暖化によって、少しずつその生息エリアが広がってきているそうです。

そのため、これまでイエシロアリの被害がなかった地域でも、今後はしっかりとした対策が必要になってくるかもしれません。

新たなシロアリの脅威

ヤマトシロアリとイエシロアリに加えて、最近新たなシロアリが深刻な問題を引き起こしています。

それが、アメリカカンザイシロアリ。

その名の通り、アメリカカンザイシロアリはアメリカの太平洋沿岸部がもともとの生息地ですが、輸入家具や木材と一緒に日本にも侵入してきているそうです。

アメリカカンザイシロアリの特徴は、ヤマトシロアリやイエシロアリと違って湿った木材を好まないこと。そのため、建物内の乾いた柱や木材に被害をもたらします。

またアメリカカンザイシロアリは小さな集団で活動するため、生息地の特定が難しく、ヤマトシロアリやイエシロアリ向けの駆除方法では対処できない点も非常に厄介。

日本におけるアメリカカンザイシロアリの被害は今のところ限定的ですが、たとえば中野区の某商店街ではアメリカカンザイシロアリの痕跡(糞)が発見されており、区のホームページでも注意喚起がなされています。

不動産エージェントとしてシロアリにどう取り組むべきか

実はこれまで不動産エージェントとしてシロアリの種類などにはあまり関心がなかったのですが、詳しく話を伺ってみると非常に興味深い。

一口にシロアリと言ってもその種類によって特徴が大きく異なり、その生態を知ることで対策も大きく変わってくるということが良く分かりました。

<ヤマトシロアリへの対策>

ヤマトシロアリは乾燥に弱いため、ベタ基礎の住宅ならばそれほど心配する必要もありません。

しかしヤマトシロアリは湿った場所を探して、「蟻道(ぎどう)」と呼ばれる道を作って移動することがあります。そのため家の中に雨漏りや普段から結露している場所がある場合、この蟻道を取って壁の内部や柱まで被害を及ぼす危険があります。そのためベタ基礎の住宅であっても、常時湿っているような場所がないかどうかしっかりチェックしなければなりません。

まずはヤマトシロアリが通るような道を作らないこと。コーキングの劣化にも注意が必要ですね。ベタ基礎であれば、そうした対策によって十分な予防効果が期待できます。

一方で昔ながらの布基礎の場合、床下に湿気がたまりやすくコンクリートも薄いため、ヤマトシロアリが侵入しやすい。そうした中古物件を紹介するときにはシロアリ対策がなされているかどうかを確認する必要があると同時に、顧客にも定期的なメンテナンスを促すことが大切となるでしょう。

<イエシロアリへの対策>

イエシロアリは寒冷地で生息することはできません。

そのため、北陸や東北、北海道などはもちろん、関東でも内陸部などの寒い地域ではイエシロアリの対策は必要ありません。

逆にイエシロアリの生息が報告されている地域の場合、扱う物件がシロアリ対策やメンテナンスがしっかりなされているかを確認する必要があります。そうした対策がなされていない物件、もしくは意識の高くない顧客が購入を希望される場合などは、危険なエリアを避けて物件を紹介するということも必要になるかもしれません。

<アメリカカンザイシロアリへの対策>

アメリカカンザイシロアリの防除については、日本しろあり対策協会が中心となって対策を進めているようですが、公式な駆除方法などは発表されていません。

そのため不動産エージェントとして顧客にアドバイスできることも限られているのですが、アメリカで広く行われているホウ酸塩処理は有効な対策となりえます。

アメリカカンザイシロアリの被害はこれから広がってくると予想されているため、こうした知識もしっかりと持っておきたいものです。

まとめ

シロアリは大切な家を食い荒らしてしまう、厄介な存在。

不動産エージェントとしても、お客様から新築時についているシロアリの保証期間が過ぎた後、定期的に薬品の散布をしたほうが良いか尋ねられることがありますし、中古物件ならばなおさらその家の状態についてしっかり確認しなければなりません。

寒冷地でベタ基礎の家であれば、基本的な対策でシロアリを防げるでしょう。

布基礎の住宅やイエシロアリ、そしてアメリカカンザイシロアリの生息が確認されている地域などではシロアリ対策がしっかりなされているか確認すると同時に、顧客への注意喚起も忘れてはなりません。

やはりそれぞれのシロアリの特徴や生態を知っておくことが、しっかりとしたアドバイスを差し上げることにつながるというわけですね。

私も恥ずかしながら、これまでシロアリの種類や特徴などについては深く考えたことがありませんでした。

しかし調査員さんの何気ないつぶやきをきっかけに、シロアリの特徴や取るべき対策について学ぶことができましたし、不動産エージェントとして常にアンテナを張り伸ばすことの大切さも改めて確認できました。

不動産エージェントとして顧客にいつでも最適なアドバイスができるよう、これからも一緒に学んでいきましょう!






この記事を書いた人

不動産エージェント 藤木 賀子

スタイルオブ東京(株)代表。
25歳で建築業界に入り、住宅・店舗・事務所・外構の営業・設計から施工まですべてを経験。
世界の建築に興味があり、アジア・北米を中心に建築を見て回り、いい家を追求すべく世界の家を研究。結果、いい家とは『お客様の価値観』にあることに気づき、自分が作るよりお客様の代理人としてお客様の想いを可視化・具現化・実現化することが出来る不動産プロデュースの道に。
これまでの経験とスキルを、不動産エージェントとして活躍したい人に向けて発信中。





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