不動産エージェント~知識をつける~『中古不動産の価値』
中古不動産の価値は築25年で本当に下がるのか?!
中古マンションの価値 築年数と共に大事な「○○」とは!?
「買いたい中古マンションがあるのだけど、築年数が古いと将来売却できませんよね?」
お客様から、こんな質問をされることがあります。
中古マンションの価値を判断する目安として、一般的に用いられるのが築年数。築年数が古いほど価値が下がる、という考え方です。
確かに、築後25年が経つと価格が大きく下落するという統計があります。新築時の半値ほどで流通している古いマンションも少なくありません。
しかし現実には、築40年を超えていても新築時の価格を維持している、それどころか価格が上昇している中古マンションも多数存在します。築年数のみで中古マンションの価値が決まるわけではないのです。
マンションが立地するエリア、建物の状態、大規模修繕の前か後か、管理組合の活動状況はどうか…
中古マンションの価値は、これら様々な要素が絡み合って成り立っています。
この記事では、その中でも「立地」に焦点を当ててお話しします。
中古マンションの購入に当たっては、価値を維持している物件を選ぶことがまず重要なポイントです。
「価値」という言葉が包含する内容は幅広く、住むことが出来るという時点で、その家は物理的な価値を有していると言えます。ここでは、購入した物件を後に売却することになったときに手元にお金が残るか、少なくとも債務が残らずに済む状態を「価値がある」と定義しておきます。「資産価値」「市場価値」などの言葉で表される「価値」です。
では何から、そうした価値を判断できるでしょうか。
よく用いられる物差しが「築年数」。建築されてから何年経っているのかを示す数字は、正確かつ一目で分かる客観的な指標です。
一般論では、住宅の価値は経年によって減少していきます。住宅の法定耐用年数に基づく減価償却年数は、木造戸建てが22年、マンションが47年。また、国土交通省「中古住宅流通、リフォーム市場の現状」の統計によると、木造戸建ては築後約20年で価値がほぼゼロになってしまいます。一方、耐用年数が木造戸建てより長いマンションは、戸建てと比較して緩やかに減価していきますが、それでも築後25年ほどで価値が半分程度になっています。
ただしこの統計は、あくまで全国の対象物件を基に算出された〝平均値〟。ミクロで見れば、個々の物件の価値は、築年数に限らないあらゆる要素で構成されています。その結果、1つとして同じ物件はありません。
そしてあらゆる要素の中でも、物件の価値を大きく左右するのが「立地」です。
スタイルオブ東京が過去に売買を仲介したり、お客様にご紹介するため調べたりした案件の中から、2つの事例をご紹介しましょう。
1つ目は、埼玉県東部の某市に所在する「Aハイツ」。1979年1月に建築され、2020年時点で築41年です。エレベーターなしの5階建てで、最寄り駅からは徒歩15分の距離があります。
5階住戸の新築当時の売り出し価格は1253万円、㎡単価は19.91万円でした(5階の一部住戸除く)。それが、40年以上経った2019年時点で430万円、㎡単価は6.83万円。半値以下に下がっています。
前出の統計によれば、マンションは築25~26年程度で価値が半分ほどになりますが、それを上回るスピードで減価していることが分かります。
もう1つの事例は、都内の城西エリアに立地する築45年のBマンション。
7階建てで、最寄り駅からは徒歩8分の距離です。
1975年の新築当時は、5階住戸が2270万円、㎡単価31.75万円で売り出されていました。これが2014年時点で、なんと3580万円、㎡単価50.01万円で流通しています。築後約40年が経っているにもかかわらず、下落どころか1000万円値上がりしているのです。
もちろん、その時々の景気動向によって中古マンションの相場は変わります。
例えば、平成バブル期に分譲されたマンションはバブル崩壊以降、軒並み下落しています。押しなべて高額だった分、下げ幅も大きいです。
ただ、そのように分譲時の年代によって中古流通時の相場が異なってくることを踏まえても、ほぼ同じ築年数でありながら一方は半値以下に下がり、もう一方は1,000万円値下がりしている。これほどの差が生じているのには、それなりの理由があるのです。
一番の理由は、「立地」だと考えられます。端的に言うと、その物件の所在する地域が「建て替えに耐えられる立地かどうか」が、価格動向の明暗を分けると言っていいでしょう。
Bマンションが所在する城西エリア(地域)と言えば、人口の多い世田谷区や杉並区を擁する全国でも屈指の人気エリア。Bマンションの周辺では、築39年で㎡単価が65.13万円、築52年で同58.15万円など、中古マンションの価格がBマンションと遜色ない水準で推移しているケースが散見されます。
つまり地域自体の価値が高いから、そこに所在するマンションも押しなべて価値が高い。そして建て替えても存続していける価値があるとみなされているから、古くても価値が下がらないのでしょう。
「地域」という要素が、個別の「築年数」より上位に位置付けられているというわけです。
また、人気エリアでは上記の通り、地域の価値に連動して物件個々の価値が一定程度担保されているため、長く維持管理していくだけの価値もあるとみなされ、適切に修繕されることが多いです。そうして物件の状態が良好に保たれれば、それも当然その物件の価値の維持・向上に寄与します。地域を起点にして、このような好循環も生まれてきやすいのです。
一方のAハイツが所在するのは、埼玉県郊外のベッドタウン。少子高齢化に伴う人口減少がますます進展する今後は、旺盛な住宅需要が見込みづらいエリアです。立地の観点で言うと、相対的に価値が低いと言わざるを得ず、築年数を経た物件が将来的に建て替えに踏み切るのは厳しいでしょう。
ただし、エリアもマクロに見る必要があります。
相対的に人気の高くないエリアでも、特に駅勢圏(※)における中古マンションの流通事例を細かく見てみると、価格推移の傾向に違いがあることが分かります。
Bハイツの周辺に、Cパレスという築33年の中古マンションがあります。最寄り駅からの距離は徒歩5分。この一住戸(約75㎡)の新築時の価格は2370万円、㎡単価は31.5万円でした。そして2020年時点の流通価格は1780万円、㎡単価は23.7万円。下落しているといえばそうですが、下落幅は3割程度に留まっています。「中古マンションの価値は築25年ほどで半減する」という前出の統計を踏まえると、価値の目減りが少ないことが分かります。
こちらの一住戸(約79㎡)の事例を見ると、新築時の価格は3188万円。2016年時点では2850万円で流通しています。築10年で、下落幅が1割程度に収まっています。
CパレスとDタワーの事例の共通点は、最寄り駅からの近さ。人気エリアとは言えない郊外でも、駅から至近距離で生活利便性が高い場所であれば、中古マンションの価値が一定程度維持される場合があることを示しています。前出のBハイツの5階住戸が大幅に値下がりしてしまったのは、エレベーター未設置の物件の最上階という個別要因も大きいと思われますが、最寄り駅からの遠さがまず影響しているはずです。
中古マンションの価値を形成する要素としての、立地の重要性についてお話してきました。
「どのような立地がよいか」ということは、その地域の人気度や交通利便性、地盤のよしあしなど様々な角度から検証する必要がありますから、杓子定規に決めることはできません。
不動産エージェントとしてすべきなのは、まずシンプルに「人が住みたいと思える場所」を見極めること。その上で、お客様の思い・要望と合致する地域・物件を選ぶことかと思います。
※鉄道駅を中心として、その駅を利用すると期待され需要が存在する範囲のこと。
ライター 鹿島香子
大学卒業後8年半、不動産業界紙「住宅新報」で記者として働く。
主に中古住宅流通、行政系の記事を担当。
2児の出産・育児を機に現在はフリーで活動。