不動産エージェント~知識をつける~『建築・設計士も不動産会社レベルのファイナンス知識が必要だ!』
老朽化したアパートのオーナーからリノベーションについて相談され、気合いの入ったプランを提出したのに、その後、連絡がとれなくなった。建築・設計士ならば、一度はそんな経験ありますよね。
「プランの意図が分かってもらえなかったのかな?」なんて、自分に都合良く考えていませんか。連絡がとれなくなった原因とは、もしかしたら、あなたが収益不動産をリノベーションする上で絶対に必要な知識がなかったからかもしれません。
老朽化した賃貸アパートや賃貸マンションなどの収益不動産は、リノベーションだけを考えれば良いわけではありません。トータルでの収益改善を考えれば、リノベーションの他にも、建て替えや売却など検討しなければいけない選択肢がたくさんあるのです。不動産オーナーが相談している相手は何も建築・設計事務所だけではありません。実は建築会社や不動産業者もいるかもしれないのです。収益改善のための様々な選択肢を考えてくれる相手と、ただリノベーションのプランを考えてくれる相手ならば、どちらをパートナーに選ぶでしょうか。つまり収益不動産のリノベーションには、ファイナンスの知識が必要不可欠なのです。
選ばれる建築・設計士になるために必要なスキルを不動産の相続や富裕層の資産形成について詳しい、あゆみリアルティーサービス代表の田中歩さんに聞いてみました。
選ばれる建築・設計士になるため足りていないもの
私は相続対策や資産形成など、富裕層が抱える複雑な問題に取り組む不動産会社を経営しています。税理士や弁護士だけではなく、建築・設計士と一緒に仕事をすることも多いです。
プロジェクトを進める上で感じることは、建築・設計士は不動産会社が持っているような知識、すなわち税務や資金調達、事業プランニングと事業収支予測といったファイナンス全般の知識をもっと身につけるべきだということです。
ファイナンスの知識は賃貸アパートや賃貸マンションを建築・設計するためには必須の知識です。もちろん、全ての不動産会社ができているわけではありません。しかし、厳しい競争に勝ち続けている不動産会社は必ずファイナンスの知識を持っています。
建築・設計士もこうした知識を持つことで、ライバルよりも良い仕事ができるのではないでしょうか。
要望を鵜呑みして不幸を招くことも
一つ事例を紹介しましょう。
先日、相続対策を考えている地主から、所有する土地にアパートを建築しようとしているので、よい建築・設計士を紹介して欲しいと連絡がありました。
しかし、土地について聞いてみると、とてもアパート経営に向いている場所ではないように思えました。建ててしまうと、新築時ならともかく、しばらくすると、入居者がつかなくなり苦戦するのが目に見えます。
お客様に「なぜ、ここでアパートを?」と聞いてみると、「以前から数社のアパート建築会社から営業を受けていたから」と、お答えがありました。アパートの提案を何度も受けていたから、何となくアパートが一番良いと思い込んでいたんですね。
すぐに本格的に調べたところ、やはりこのエリアには賃貸アパートのニーズは少ないことがわかりました。
そこで、市況が良いうちに土地をそのまま売却してしまい、その資金を使って賃貸ニーズの多いエリアに収益不動産を保有するか、地主が別の場所に保有している賃貸不動産への追加投資を提案しました。
要するに建物建築や修繕等の投資額に対して適正なリターンが期待できるかどうかという判断をしたわけです。
もしも、この地主が私ではなく、ファイナンスの知識をもたず、地域の賃貸市場についても知らない建築・設計士のもとに相談に行っていたら、どうなっていたでしょうか。言われるがままにアパートを作り、数年後には大きな後悔をさせることになったかもしれません。
経験豊富な不動産実務者をパートナーにすべき
こうしたミスマッチを無くすためにも、ファイナンスの知識を持ち、顧客が様々な視点から総合的な判断ができるように、一歩踏み込んで話ができる建築・設計士が増えるべきだと思います。
顧客は所有する不動産について、どこに相談すべきかを悩んでいると思うのです。
不動産の専門家ではない顧客は常に自分の所有する不動産について「どうすべきか」、「どこに相談したらよいのか」と悩んでいます。
特に収益不動産となると、どのくらいのコストをかけて建築すべきか?ということは、実に悩ましいところです。
また相続や投資の悩みは、長期にわたって解決していく問題です。相続対策や資産運用のための投資用不動産の建築は、作品や商品の説明だけでは完結しません。
建築や設計に関わる人ならば、自分が作る商品についてならば、いくらでも細かな説明ができるはずです。しかし、それ以外のことはあまり多くの知識を持たない人も少なくないのではないでしょうか。しかし、それでは顧客を不幸にしてしまう可能性があるのです。
建築の知識だけでなく、ファイナンスまで考えて提案できる建築・設計士がこれからの顧客に必要とされるのです。
投資用不動産建築に必須の税務と事業収支の知識
では建築・設計士は収益不動産に関わる上で、特にどんなファイナンス知識を持つべきなのでしょうか。
相続税法も基本的な部分の理解は必要ですが、なんといっても「事業収支と所得税法」ではないでしょうか。
つまり賃貸事業収支だけではなく、入居家賃から金融機関からの借り入れ利率、そして税金の知識、そして投資リターンに対する判断力です。なかでも事業収支は新築単年ではなく、中期でイメージできるようになって欲しいです。
賃貸住宅経営を続けていくと、金利の利払いが減っていくこと、償却が止まること。賃料が下がること。そういった年月とともに変化する要素を踏まえながら、最終手取りがどう変わっていくかの感覚がつかめるようになります。「この企画はやり過ぎだ」、「ここにお金をかけすぎてはいけないな」といったバランスの取り方も見えてきます。
このファイナンスをフィナンシャルプランナーなどに任せてしまうと、収支ありきの建築提案となってしまい、メンテナンスコストを織り込むことや顧客のワクワク感なども喪失してしまうことも少なくありません。これでは建築・設計士が取り組む意味がありませんし、モチベーションもなくなってしまいますよね。
建築・設計士が取り組む意味は、顧客の収支をみながら、将来的な建築コストや、エリアに対して街づくりの一環としてのコストを捻出できるようになることだと思います。
これこそが建築・設計士の腕の見せどころではないでしょうか。
他業種と継続的な関係を築く
今や、ワンストップサービスは当たり前の時代です。でもまだまだ、不動産会社でも完璧にできている会社は多くありません。
不動産会社にとっては売ったり、買ったりが一番簡単ですからね。だからといって、相談したら、売買の話しかしない不動産会社は信頼されるでしょうか?
これは建築・設計士も同じだと思うのです。専門外の領域に一歩踏み込んでみる姿勢が大切だと思います。
大切なのは専門家とのパートナーシップ
知識を増やすことは重要ですが、建築・設計士が複雑な相続や資産形成に関わる業務の全てを自分でこなす必要はありません。大切なのはなのは不動産会社や他の専門家との適切なパートナーシップではないかと思います。
現状では不動産会社から建築・設計士に仕事を振る、という一方的な流れになっています。これでは、お互いに良い意見を出し合って、お客様のために最高のものを作るという関係性にはなりません。
パートナーシップの関係を作るためには、業界の境界を超えることが重要です。他の専門家の分野をかじることです。同じ志をもった専門家と繋がり、ともに学びながら、自分が心から楽しいと思える仕事をすることが顧客の幸せにつながるのではないでしょうか。
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この記事を書いた人
不動産エージェント 藤木 賀子
スタイルオブ東京(株)代表。
25歳で建築業界に入り、住宅・店舗・事務所・外構の営業・設計から施工まですべてを経験。
世界の建築に興味があり、アジア・北米を中心に建築を見て回り、いい家を追求すべく世界の家を研究。結果、いい家とは『お客様の価値観』にあることに気づき、自分が作るよりお客様の代理人としてお客様の想いを可視化・具現化・実現化することが出来る不動産プロデュースの道に。
これまでの経験とスキルを、不動産エージェントとして活躍したい人に向けて発信中。
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