家を支える「木の強さ」について考えよう!【前編】

構造材の実際の品質はどうなっている?

突然ですが、「家造りのための『良い木』とは?」と聞かれたら、どう答えますか?

もしかすると、フローリングや天井に使う無垢材や、ぬくもりを感じられる木材などを思い浮かべるかもしれません。

それはそれで間違いではないのですが、それらの木の良さは、見た目の美しさの話。

家造りにはそれとは別に、家の骨格である構造に用いる「良い木」が必要です。

では、その構造材の品質は、実際のところ一体どうなっているのでしょうか?

ふとそう感じた疑問について、木造の個人住宅の設計監理を中心に活動している「アトリエフルカワ」の主催者、古川泰司氏にお話を伺いました。

日本で木造住宅の構造に使われている木材の品質だけにとどまらず、日本の建築業界の問題点や、不動産エージェントとして木材にどう向き合うべきか?など、非常に多くのことを学ぶことができたので、皆さんにもぜひお伝えしたいと思います。

木材住宅のための構造計算とは?

まずは木造住宅の構造について、簡単におさらいしておきましょう。

柱や梁、土台など、建物を支える骨組みのことを「構造」といいます。

その構造の素材の違いによって、「木造」、「鉄骨造」、「鉄筋コンクリート造(RC造)」と分けられるています。

そしてその建物の構造部分にかかってくる力や、その安全性を確認するための計算を「構造計算」というわけです。

地震をはじめとして、様々な災害に見舞われるここ日本において、建物の安全性を担保する構造計算は、非常に重要なものだと誰でも気がつくでしょう。

しかし実は日本の一般住宅のほとんどを占める木造住宅の場合、設計士が責任を持って行うことを前提に、確認申請に構造の検討書類は添付しなくても良いとされているのです。

建築基準法で定められている構造計算とは、
1)許容応力度計算
2)許容応力度等計算
3)保有水平耐力計算
4)その他(限界耐力計算/時刻暦応答解析) によって行われます。

しかし、一般的な木造住宅の場合はこれらの構造計算ではなく、「壁量計算」という別の計算方法を用いても良いとされているのです。

壁量計算とは上記(1)~(4)までの計算方法を簡略化し、耐力壁の配置や材料、厚みを設定して建物の安全性を検証・確認する方法です。

壁量計算は厳密には構造計算とみなされず、構造設計者ではない一般的な建築士でも行うことができるため、一般的な木造住宅の設計のほとんどは、(コスト削減のために)この壁量計算に頼っていると言われています。

建築基準法において、一般的な二階建てまでの木造住宅(500㎡以下)は「4号建築物」として分類され、建築基準法で定められている構造計算ではなく、より簡略化された壁量計算のみで良いとされているのです。

これを、「4号特例」といいます。

(当記事で「構造計算」と述べているのは、すべてこの「建築基準法で定められた構造計算」のことを指しています)

日本の住宅に用いられている木材の実態とは?

私が木材に興味と疑問を抱いたのは、和歌山県を拠点とする「山長商店」さんを見学したことに端を発します。

山長さんは林業からプレカット加工までを一貫して行う老舗の企業で、山長さんが扱う木材は「山長ブランド」として、非常に高い評価を受けています。

山長ブランドを支える一番の秘訣は徹底した品質検査で、木を一本一本、専用の機械を使って品質を測定し、A級品とB級品とに分けています。A級品は山長ブランドとして出荷しますが、B級品は市場に卸しているそうです。

B級品とはいっても山長さんの木材はそもそものクオリティが高いため、全く問題は無いそう。

では、それ以外の一般に出回っている木材の品質はどうなっているのでしょうか?

上にも書いたように、日本の一般的な木造住宅では構造計算は必須ではありません。

ということはつまり、構造の元となる「木の強さ」が大切なのではないか?と思ったわけです。

日本で用いられている構造材の品質は、JAS(日本農林規格)が定めた基準によって、大きく以下の2つの種類が存在します。

  • 機械等級区分:一本ずつグレーディングマシンで検査し、等級区分を行う。山長さんが行っているのがこれ。
  • 目視等級:木の見た目や節の数によって、強さを評価する。

当然ですが、目視等級よりも機械等級区分の構造材の方が信用できる構造材となります。

しかし、機械等級区分を行うためのグレーディングマシンは高価で、中小企業では導入するのもなかなか難しい。

ということはつまり、構造材の多くは目視等級で測定された木が用いられているかと思いきや、実はもう一つのクラスが存在するのです。

それが、無等級材です。

無等級材とはJAS規格に定められていない木材のことで、つまり品質管理がなされていない木材ということになります。

もちろん無等級材だからといって、品質が全て悪いというわけではありません。

品質管理がなされていないため、その木材の強さが分からないということ。強い木材も弱い木材も混ざっている、というのが実態でしょう。

そして何より気になるのが、建物の構造材としてこの無等級材を使っても構わない、ということになっているのです。

品質についてしっかりと確認・管理がされていない木材を構造材として用いても大丈夫なのか?というのは当然の疑問でしょう。

その点について考える前に、日本の木造住宅に用いられるもう一つの木材、輸入木材についても考えていきましょう。

国産材か輸入木材か?

さて、上で述べた木材は全て、日本で育って伐採した国産の木材についてでした。

しかし構造材に使われているのは、国産材だけではありません。

日本の木材の自給率は、およそ4割とされています(参考:https://www.rinya.maff.go.jp/j/press/kikaku/220930.html)。

国産材のシェアは年々増加傾向にはあるそうですが、依然として半分以上の木材を輸入に頼っている状況に変わりはありません。

では、この輸入木材のクオリティはどうなっているのでしょうか?

国産材を用いた構造材の品質はJASの基準に沿っていることは先に述べた通りですが、これは日本独自のもの。

輸入木材の品質は、以下の2つの基準に基づいています。

  • ヤング係数(弾性率):材料の固さを表す指標の1つで、ヤング係数が大きいほどたわみにくくなる。
  • 含水率:木材の含まれる水分量のこと。その木がカラカラに乾いた絶乾状態の重量に対して、どの程度の水分を含んでいるかを示す。

輸入木材は国際商品として扱われているため、全ての木材に関してこのヤング係数と含水率が明記されています。

つまり、エビデンスがはっきりしているわけですね。

一方で、国産材はそれが明確ではない。

それが今回、私にとって大きなショックを受けた事実の一つでした。

なんとなく、日本の木材の方が優れている。そう思っていたのですが、実はそうではなかったのです。

建築基準法上は、構造材の品質については設計者が見るとされています。しかし、その品質が何を指すかは書かれていない。暗黙の了解として、国産材の品質はJASの認証となっているそうです。なにしろ、それが唯一の基準だから。しかし、実際には国内に5,000余りある製材所のうち、JAS認証の木材を出荷しているのは600ほどだそう。さらにそのうち、機械等級区分の木材を出荷しているのは90社しかほどしかないというのです。

JAS認証の木材を使うのが一番良いのだけれど、市場にはほぼ出回っていない。そのため、JAS認証材を使うように法律で強制することはできない、というのが実情なのです。

つまり、構造材として使われている国産材のほとんどは、無等級材ということ。

しかしだからといって、建築基準法に反しているというわけではありません。なにしろ、求められる品質がどういうものかが明示されていないのですから!

一方で、輸入木材はその木の「強さ」が、数値としてしっかり明示されています。しかも、全ての木材について。

これでは、誰が好き好んで国産の木材を使うでしょうか?

「国産材」という響きは良いかもしれませんが、その品質については、エビデンスがしっかりしていない。

それに比べて、輸入木材は品質保証がしっかりなされていて、しかも価格は国産材よりも安いことが多い。

これでは、国産材のシェアが5割に満たないのも無理はありません。

もちろん、現在の国産材の自給率の低さは、JAS認定材の割合が低いことだけに起因するものではありません。

むしろより大きな原因は、戦後復興時からの経済や林業に関する政策の歴史に由来します(その点については、機会があればまたお伝えしたいと思います)。

ただ重要なのは、住宅の供給量が落ち着いた今の時代においても木材の性能の「見える化」が進んでいないことであり、その一方で輸入材はそれがしっかりと表示されているということ。

安くて、品質のしっかりしている輸入木材の割合が過半数を超えているという現状は、ごくごく当然のことと言えるかもしれません。

家の「強さ」を担保しているのは何なのか?

日本の一般的な木造住宅のほとんどは、(厳密な意味で言うと)構造計算が行われていません。

であるならば、しっかりとした「強さ」の木を使って家の強度を保っているのかと思いきや、使われているのが国産材の場合、そもそもエビデンスがしっかりしていないことが多い、ということが分かりました。。

4号建築物は壁量計算、つまり壁の強さだけで建物の安全性を確認しても良いとされています。

しかし地震のときには当然ですが壁だけではなく、梁や柱にも力がかかります。そのため本来であればそれらの木の強さも分かっていなければ、地震に強いとは言えないはずです。

しかし、実際には国産材についてはその強さが測られてるわけではない。

さすがにそれはまずい。ということで、実際に用いられる構造材には、基準強度というものが定められています。

過去に行われた木材の実大強度試験のデータを元に、木の種類や等級によって、最低限の強さがあると見なしているわけです。

しかし基準強度はあくまでもデータに基づく確率論ですから、本当のところの強度は誰も分からない。試しに構造材を測定してみたら、基準に達していなかったということも実際に起きているのです。

では、大手ハウスメーカーの家の構造が頑丈かというと、必ずしもそうとは限りません

なにしろ法律で一般住宅には構造計算も求められていないし、梁や柱に使う構造材も過去のデータに基づく基準強度さえ満たしていれば良いわけです。

そうである以上、なるべくコスパの良い家を提供しようと考えている大手ハウスメーカーが、手間とお金をかけて構造上「良い木」を使おうとするでしょうか?

むしろ大手メーカーは無垢材ではなく、コストが抑えられて強度もしっかりしている集成材を使うことがほとんどですね。

ただそれでも、長期優良住宅ではない一般の住宅において、壁量計算以上の構造計算を行うことは普通ありません(顧客が求めればもちろん別です)。

またメーカーの営業マンはアピールのために、「我々は国産の良い木(無垢材)を使っています」と言うことがあるかもしれません。

ところが、それが本当に良い木なのかどうかを消費者が判断できる材料は何もないのです。

なにしろ、柱などの構造部分は目に見えない。仮に梁の見た目が良いとしても、それが本当の意味で「強い木」かどうかは、無等級材では判断できないのです。

では、国産の無等級材で作られた構造の家が危険かというと、必ずしもそうとは限りません。

例えば、3.11の時には関東も震度5強を観測しましたが、木造建築の多くは倒壊を免れました。

実際のところ、国が定めている耐震基準は諸外国に比べても非常に高いレベルにあります。その強度を支えているのが金物とか、構造合板の部分。つまり、構造材に頼っているわけではないのです。

さらに言うと、一般住宅程度の大きさの家であれば、地震に対して大きな動きは見せません。それも、構造材に強い木を必要としていない原因ともなっています。

こうしたことから、これまで構造材としての木の「強さ」については、あまりフォーカスが当たってこなかったというのが実際のところでしょう。

しかし、それが大きく変わろうとしています。

2025年問題です。

不動産業界における2025年問題とは主に、団塊の世代が後期高齢世代となることで引き起こされる、空き家の増加や不動産価格の下落などへの懸念のことを言いますが、ここで述べているのはそのことではありません。

2025年に建築基準法が改正され、一般木造住宅に適用されてきた4号特例も大きく見直されようとしているのです。

この法改正によって、これまであまり注目されてこなかった、一般住宅の構造に関しても大きく考え方を改める必要が出てくるでしょう。

では、この改正によって家造りは具体的にどのように変わるのでしょうか?

消費者として、どんなポイントに気をつけなければならないでしょうか?

そして我々不動産エージェントは、この改正にどのように備えるべきなのでしょうか?

そうした点については、【後編】でさらにじっくりお話していきたいと思います。

構造材の品質問題から見えてくる、日本の問題点

今回は、家の骨格となる構造材の実際の品質がどうなっているのか、という点について考えてきました。

私もそうでしたが、国産の木造材が実際にはあまり信用できないものだったという事実に、驚かれているかもしれません。

しかし今日考えたようなことは建築業界に限らず、実は日本の社会全体が抱える大きな問題にもつながっているのではないかと思うのです。

私たちはなんとなく、「国産」と聞くだけで良いものだとイメージしてしまう。

木材に関しては、恥ずかしながら私自身もそんな考えを抱いていました。

国産だからきっと良いものなんだろうと思う我々の心理を、メーカーもうまく利用する。

消費者の側も、しっかりとたエビデンスに基づいて考えるのではなく、付き合いやイメージといった、ふんわりとしたもので判断してしまう。

国民の命と生活に責任を負うべきはずの国も、きっちりルールを定めてしまうと現場が困ってしまうからといって、いわゆる抜け道を用意しておく。

それを現場の人間の工夫や努力でカバーして、なんとか安全や秩序が保たれているのではないでしょうか。

ドイツを始めとしたヨーロッパでは基準を厳しくして、それについてこれない民間企業は潰れても良いという判断をします。

しかし、日本はそうではない。

よく言えばみんな横並び、悪く言えば事なかれ主義で、問題が起きない限りは多少のことには目をつぶる。

しかしいざ問題が起きると、大騒ぎになってしまうのです。

ね?

とても建築業界だけの問題とは思えなくなってきたのではないでしょうか。

家は、私たちの生活の一番のベースとなるものです。

誰もが、快適で安らぐ生活を求めている。

私たち不動産エージェントは、クライアントのそうした願いを家という形で実現させる責任を負っています。

そのためにも、家の骨格となる構造材とそれを取り巻く問題について、もっと真剣に向き合わなければなりません。

では2025年の建築基準法の改正を前にして、我々不動産エージェントはこの問題にどう向き合っていくべきなのでしょうか?

そうした点についても【後編】で取り上げますので、ぜひそちらもご覧ください!






この記事を書いた人

不動産エージェント 藤木 賀子

スタイルオブ東京(株)代表。
25歳で建築業界に入り、住宅・店舗・事務所・外構の営業・設計から施工まですべてを経験。
世界の建築に興味があり、アジア・北米を中心に建築を見て回り、いい家を追求すべく世界の家を研究。結果、いい家とは『お客様の価値観』にあることに気づき、自分が作るよりお客様の代理人としてお客様の想いを可視化・具現化・実現化することが出来る不動産プロデュースの道に。
これまでの経験とスキルを、不動産エージェントとして活躍したい人に向けて発信中。






≪不動産エージェントに興味があるかたはこちらからご相談ください≫