家を支える「木の強さ」について考えよう!【後編】
木の品質から考える賢い家づくりとは?
家の骨格となる「構造」。一般住宅において、その構造の素材となるのが木です。
しかし驚くことに、日本の建築業界ではその木材の強さについてはほとんど考慮されていないという実態について、「家を支える「木の強さ」について考えよう!【前編】構造材の実際の品質はどうなっている?」でお知らせしました。
では、より良い家づくりのために、一般消費者はどんな点に注意を払うべきなのか。そして私たち不動産エージェントにはどんなことが求められているのか?という点について、さらに考えていきたいと思います。
「木の強さ」について、今まで以上に真剣に考えなければならない事態に直面しています。
それが、2025年に予定されている建築基準法の改正です。
建築基準法改正による構造計算の変更点
建築物の強さや安全性を測るための方法が、構造計算です。
その構造計算が、2025年の建築基準法の改正によって大きく変わろうとしています。
では、どのように変わるのか?
そのことを知る前に、まずは現状の構造計算についておさらいしておきましょう。
現在、構造安全性レベルの高い順に、以下のような基準が設けられています。
- 構造計算(許容応力度計算、許容応力度等計算など):3階建て以上の住宅に必須。
- 性能表示計算(耐震等級、耐風等級など):性能評価住宅などに用いられている。
- 仕様規定(測量計算など):4号建築物に対して用いられている。
一般の二階建ての木造住宅は「4号建築物」として扱われ、壁の強さなどで安全性を確認する仕様規定のみで良いとされている(これを4号特例という)のは、【前編】で説明した通りです。
この4号特例を見直そう、というのが、2025年に行われる建築基準法改正の大きな目玉の一つとなっているのです。
背景となっているのが、省エネ住宅や長期優良住宅の増加です。
家を省エネ化するには、断熱材を用いたり、太陽光発電システムを設置したり、必要な設備スペースを確保するために階高を上げたりしなければなりません。
その結果、家の構造により大きな負荷がかかるため、仕様規定のままでは安全性に疑問が生じるようになってきているのです。
そのため4号特例を撤廃して、一般住宅でもさらにしっかりとした構造設計を行おうというのが、2025年の建築基準法改正の大きな理由の一つとなっています。
さらに言えば現状の建築基準法においても、一般住宅でも4号特例を適用させずに、構造計算を行うこと自体は全く問題ありません。
地震や災害により強い家づくりをしようと、耐震等級や耐風等級などを取り入れた性能評価住宅も長期優良住宅として人気を集めています。
であるならば、いっそのこと4号特例自体を撤廃して、より高い基準で家づくりを行おうというわけですね。
そのため、建築基準法の改正によって二階建てかつ200㎡以上の建物については4号特例を撤廃し、性能評価住宅に取り入れられている性能表示計算を行うことを義務化しようとしているのです(詳細はまだ決まっていません)。
つまりは平屋以外の全ての木造住宅に対して、構造計算を行いましょう。ということですね。
この建築基準法改正による4号特例の見直しについては、私も基本的には賛成です。
なにしろ【前編】にもあったように、今の一般住宅における構造に対する考え方はゆるすぎる。
家の構造体となる木材の強度についてはエビデンスが不明なものが出回っていて、基準強度についても過去のデータに基づく確率論でしかありません。
地震や台風などの災害に多く見舞われる日本において、これまで通りの仕様規定では安心できる家造りが難しくなっているのは明らかではないでしょうか。
この見立てのとおりに建築基準法が改正されるとなると、今後は構造計算の必要性が急激に高まってくるはずです(性能表示計算も構造計算の一種)。
そして構造計算をするためには、構造材となる木材の強さをしっかり測定しなければなりません。
はい、これで【前編】とつながりましたね!
現在は4号特例で一般住宅の構造計算は必須ではないのですが、建築基準法が改正されて構造計算が義務化されるようになると、これまであまり注目されてこなかった「木材の強さ」が重要になってくるのです。
建築業界全体で、木材の強度についての考え方を大きく変えなければならなくなるでしょう。
ではそうした点を踏まえた上で、今まさに家づくりを考えている人、そして我々不動産エージェントは「木の強さ」についてどのように考えるべきでしょうか?
今から強い木について考える必要性
家の構造である柱や梁、土台といった部分は、家を建ててしまった後に簡単に取り替えることはできません。
つまり2025年に建築基準法が改正されたからといって、家の構造をそれから新しい基準に合わせるのは無理ということ。
そのため今の時点で家づくりを考えている人は、品質管理がしっかりなされている、エビデンスのはっきりした強い木材を構造に使った家を建てるべきなのです。
なぜなら今の4号特例の基準で家を建ててしまうと、建築基準法改正後には「時代遅れの家」になってしまい、将来的な価値がグッと下がってしまうからです。
現状の建築基準法上でも、しっかりと構造計算がなされている一般住宅も存在します。
それが、長期優良住宅、または性能評価住宅と呼ばれている物件です。
これらの住宅は壁量計算に加えて「床・屋根倍率の確認」と「床倍率に応じた横架材接合部の倍率」を検証する性能表示計算を行っています。
そのため、地震などの災害にもより強く、より長期にわたって快適に住み続けることができる家とされています。
この「長期優良住宅」というのは単なるメーカーの宣伝文句ではなく、国が定めた基準をクリアすることによって正式に認定をうけた住宅ですから、家の資産価値もより高くなることが期待できます。
2025年の建築基準法改正で4号特例が撤廃されると、構造計算がしっかりされている、この長期優良住宅が一つの基準となるかもしれません。
そのため、これからの家づくりを考えている人は、最初から長期優良住宅を建てるつもりで検討したほうが無難というわけです。
予算の関係で長期優良住宅を建てるのが難しい場合でも、最低限、しっかりとした品質管理のなされた「強い木」で建てられた家の方が望ましい、ということになるでしょう。
木の品質から考える、良い工務店の選び方
2025年の建築基準法改正を控え、少しずつ壁量計算だけではだめだという考え方が広がりつつあるように思います。
今でも、構造設計事務所は品質管理がしっかりなされている国産材(JAS材)もしくは、輸入木材を選んでいます。
では、一般消費者が賢く工務店を選ぶには、どうしたら良いでしょうか?
ここまで考えてきたようにこれからの家づくりには、「木の強さ」がさらに重要になってくるに違いありません。
それに気がついていない工務店には、自分の大切な家を安心して任せることは難しいのではないでしょうか。
そのため、どんな種類の木材を使っているのかを聞いてみるというのは、工務店選びの一つの大きな基準になるはずです。
「そちらの工務店では、JAS機械等級区分の構造材を使っていますか?」
と、聞いてみてください。
それだけで、工務店のある程度のレベルが判別できます。
(JAS機械等級区分については、【前編】もご覧になってください)
「それって何ですか?」
と返してくるような工務店は、非常に厳しい。おすすめできません。
私たちは木材の品質については、全く関心がありません。と言っているようなものですから。
「うちはちゃんとJAS材を使っています」
「国産ではありませんが、しっかりとした強度の輸入木材を使っています」
もしくは、「集成材でちゃんと強度を出しています」
と答えられる工務店を選びましょう。
先日、あるクライアントさんが、
「結局、ハウスメーカーの営業もガチャじゃないですか?」と仰っていました。
私はよく分からず、「ガチャってどういうことですか?」と聞き返したのですが、要はハウスメーカーの営業マンも当たり外れがあり、運次第。しかも我々のような素人には、その人が当たりかどうかを判別することも難しい、ということを仰っていたのでした。
確かに、その通りかもしれません。
今の時代、ネットには家づくりや工務店選びに関するアドバイス、情報もあふれています。
しかし、どれが本当に信用できるものかどうかを見極めるには、やはり相応の知識や経験が必要。
そのため、やはりちゃんと信頼できる工務店を選ぶことが今でも非常に大切なのです。
その信頼できる工務店かどうかを見極める指針の一つとなるのが、構造材にどんな品質の木材を使っているかを聞いてみる、ということなのです。
もちろん、工務店選びは一つの基準だけで判断できるものではありません。
予算や相性、その工務店が得意にしている家づくりと、自分が求めているもののマッチングなど、考慮すべきものはいろいろとあります。
しかし、これから先も安心して住める家づくり、そしてなるべく資産価値を高める家づくりを希望するなら最低限、家の構造、そして木材の強度についてしっかりと考えている工務店さんをぜひ選ぶようにしてください。
不動産エージェントが考えるべき、家づくりと木の強さについて
さて、一般消費者なら「そちらの工務店では、JAS機械等級区分の製材を使っていますか?」と尋ねるだけでも良いのですが、クライアントの代理人であるべき私たち不動産エージェントは、もちろんそれだけでは不十分です。
では、2025年の建築基準法改正を控えた今、私たちは「木の強さ」についてどのように考えるべきでしょうか?
まずやるべきことは、JAS材を扱っている、しっかりとした工務店や製材所とのつながりを築いておくことです。
【前編】でもお伝えした通り、日本全国に5,000余りある製材所のうち、JAS認証の木材を出荷しているのは600ほどしかなく、さらにそのうちで機械等級区分の木材を出荷しているのは90社ほどしかありません。
そのためJAS材を構造に用いたいなら、そうした製材所やそれらと付き合いのある工務店とつながるのが一番です。
例えば、「山長商店」がある和歌山県では、県が全数データを出しているそうです。そのため、和歌山県内から出荷される木材の強度はある程度分かるんだそう。木の強さの元となるのは山だから。
私が山長さんに等級はどこで分けるんですか?と聞いときにも、「まずは山です」と仰っていました。その後に、選木する。
そうしたしっかりとしたデータを持っている製材所や工務店さんと、今のうちから良い関係を築いておきましょう。
実際に製材所を訪ねてみると、非常に勉強になりますよ。私のようにわざわざ山まで見に来る人は珍しいと言われましたが(笑)。
JAS材を扱っている製材所や工務店さんとつながることができれば、クライアントに対してもしっかりとした説明を行うことができます。
頑丈な家、資産価値の高い家づくりをしたいのであれば、家の構造から考えなければならないということ。そして強い木を使うことの必要性を、エビデンスを元に説明する。
もちろん、しっかりとした木を構造材に使うためには、ある程度のコストアップは避けられません。
建築費が高騰しているため、クライアントも予算についてはますますシビアになっています。
しかし、しっかりとした根拠があれば、クライアントも納得してくれるでしょう。
例えば、JAS材を構造材にすることによって、50万円アップしてしまうとします。
総予算を変えられない場合は、代わりに諦めなければならない部分も出てくるでしょう。豪華なキッチンを我慢するとか、お風呂を別のタイプのものにするとか…。
でも、設備などは後からでも変更することができます。しかし、構造はそういうわけにはいかない。
構造についての考え方時代遅れの家は、資産価値もすぐに下がってしまう。そもそも安心して住むためにも、構造を考えることが必要不可欠。
そうしたことをしっかり説明した上で、クライアントに決定してもらう。
これが、大切なポイントです。
不動産や工務店、ハウスメーカーの営業マンなどは説明ベタな人が多いように感じます。
もちろん、彼らも自分たちのアピールポイントはしっかりと説明してくれます。
しかし、もっと大切なこと、つまり快適で頑丈な家づくりに必要なものはどういうことで、何を考えるべきかということを、エビデンスを元に十分に説明しているとはあまり思えないわけです。
しかし私たち不動産エージェントが、そのようであってはいけません。
クライントのことを真剣に考えるならば、構造と木の強さについてもきちんと説明できなければなりません。
その上で、クライアントに決定してもらうのです。
私たち不動産エージェントはクライアントの代理人ですから、快適で安心して住むことのできる家づくりに必要なことを、しっかりと説明する責任があります。
2025年の建築基準法改正を前に、構造と木材の関係性についてもきちんと理解した上で、クライアントにも分かりやすく説明できるように備えておきましょう。
(これからの家づくりには断熱も非常に大切なポイントなのですが、これについてはまた長くなってしまうので、ぜひ別の機会にお話したいと思います)
今後の展望
確かに今、JAS材を構造材にするためには、ある程度のコストがかかることを覚悟しなければなりません。
しかし、それも変わるはずです。
建築基準法の改正によって4号特例が撤廃され、一般住宅にも構造計算を行うことが必須となってくると、JAS材の需要と流通量も今より増えてくるでしょう。
木材のコストは、実はその品質というよりも、流通と密接に関わっている部分が多い。
今はJAS材が流通にほとんど乗っていないため価格も高くなってしまうのですが、流通する木材の多くをJAS材が占めるようになれば、たとえ品質が上がってもコストは今とそれほど変わらなくなるでしょう。
国産材のほとんどが、しっかりとした品質管理がなされていない木材であるというのが、今の日本の建築業界の実態です。
やはり、このままではいけません。
地震大国である日本で、強い木材を使った構造の、頑丈で快適な家づくりを今まで以上に進めていく。
そのためには、「木の強さ」について改めて見つめ直すことが大切です。
エビデンスがしっかりとした、強い木材を使うことのメリットを享受するのは、一人ひとりの消費者自身なのですから。
つまり、木の強さについて考えることが、日本の建築業界をより良くする一歩でもあるのです。
強い木材が一般的になることのメリットは、家の構造だけにとどまりません。
しっかりとした強い木を使って上手に設計すると、素晴らしい建物が出来上がります。
今回お話を伺った古川さんが主催する「アトリエフルカワ」では、木の強さと美しさを生かした、非常に素晴らしい建物を施工しておられます。
実は木材は軸力が鉄よりも高いため、木材のポテンシャルを存分に引き出してあげれば、より開放的な空間を作ることができるんだそうです。
アトリエフルカワのHPではそうした建物の施工例も公開されていますので、ぜひご覧になってみてください。
古川さんは国産材を使った建築の設計を手掛けておられるので、話も国産材に関することが中心になってしまいました。
ただ私としても、全面的に国産材を推しているわけではありません。
国産材にも、輸入材にも、集成材にも、それぞれの良さがあります。
ただ、日本は昔からずっと木造建築を手掛けてきていて自前の木材も入手できるわけですから、わざわざ海外から輸入しなくても、日本の大切な産業の一つとして国産材の利用がもっと進めばいいのに、と思うのです。
そのためにはやはり、エビデンスのはっきりしている輸入材のように品質管理を徹底し、流通量を増やしてコストを適正なものにする必要があるでしょう。
しかしそうすれば、林業を含めた日本の建築業界全体が、さらにより良いものになると信じています。
まとめ
これまで4号特例として厳密な意味での構造計算が免除されてきた一般住宅も、2025年の建築基準法改正で二階建て以上の木造住宅には構造計算が必須となる見通しです。
そのため、これまであまり注目されてこなかった「木の強さ」についても、建築業界全体でよりいっそう真剣に考えなければならなくなるでしょう。
家づくりは本当に複雑で、大変なものです。
でもだからこそ、私たち不動産エージェントはクライアントに正確な情報を分かりやすく伝えてあげて、彼らが正しく決定できるようにサポートしなければなりません。
しっかりとしたエビデンスに基づく「強い木」を使った構造で、地震や災害に強くて資産価値の高い家づくりをお手伝いできるように、引き続き最新の情報を取り入れていきましょう。
この記事を書いた人
不動産エージェント 藤木 賀子
スタイルオブ東京(株)代表。
25歳で建築業界に入り、住宅・店舗・事務所・外構の営業・設計から施工まですべてを経験。
世界の建築に興味があり、アジア・北米を中心に建築を見て回り、いい家を追求すべく世界の家を研究。結果、いい家とは『お客様の価値観』にあることに気づき、自分が作るよりお客様の代理人としてお客様の想いを可視化・具現化・実現化することが出来る不動産プロデュースの道に。
これまでの経験とスキルを、不動産エージェントとして活躍したい人に向けて発信中。
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