これも国民性?日本とアメリカの不動産取引の違いとは

先日、アメリカで活躍している知り合いの不動産エージェントと話していたときに、日本とアメリカの不動産取引の違いには国民性も関係しているのではないか、と感じました。

その中でも特に衝撃的だったのが、売り手・買い手の両者ともしっかりと権利を主張するということです。

不動産取引に関する手法や基本的な考え方の違いを知っておかないと、余計なトラブルを引き起こさないともかぎりません。

日本の不動産を購入する外国人も増えてきている中、日本とアメリカで不動産取引にどのような違いがあるのか?さらに、その違いを生み出している背景について少し考えてみたいと思います。

大前提として:日米の不動産取引の一番の違い

日本とアメリカの不動産取引の一番の大きな違いは、誰を仲介とするか?という点です。

日本で物件を探す場合は、不動産屋さんを尋ねるでしょう(ネットで検索するにしても同じことです)。

しかしアメリカの場合は、不動産エージェント探しから始まります。

不動産エージェントは自分の代わりに物件を探し、交渉まで行ってくれる代理人のことを言います。

アメリカの不動産取引では売り手と買い手、それぞれにエージェントがつくため、なるべく有利な条件で契約を結べるように尽力してくれます。

そのため、まずは自分が信頼できる不動産エージェントを探すことが、’不動産選びの第一歩となるのです。

エージェントを見つけた後の、不動産取引の大きな流れは日米共に大きな違いはありません。予算を決め、物件を探し、内見を行い、契約のための諸々の手続きを行います。

しかしこの流れの中にも、日米で色々な違いが出てくるのです。

それが、今回のテーマとなります。

日米のインスペクションの違い

そもそもの発端は、アメリカで活躍する日本人不動産エージェント(ここでは仮にA氏とします)が、日本で中古マンションを購入したところに遡ります。

A氏は中古マンションの購入時にインスペクションを要求したが、不動産屋さんに意味がないと言われたことがすごく不満だと言うのです。


念のために説明すると、インスペクションとは専門家(インスペクター)による、住宅の劣化や不具合の調査のことです。特に中古物件に関してはインスペクションを実施することによって、安心して不動産取引を行うことができます。

(インスペクションについて更に詳しくは、不動産エージェント~知識をつける~『インスペクション』また、不動産エージェントが知っておくべき「建物状況調査」と「インスペクション」の違いならびに瑕疵保険との関係性とは?をご覧ください)

日本ではインスペクションはまだまだ一般的ではありません。しかし2018年に宅地建物取引業法が改正されて新たに「建物状況調査」の項目が盛り込まれたため、今後より広く行われるようになるでしょう。

一方中古物件の売買が盛んなアメリカでは、不動産購入の際にインスペクションを行うことは常識となっています。

中古物件には重要なインスペクション。それが今回、意味がないと言われたのはなぜでしょうか?

それはA氏の購入した物件が戸建住宅ではなく、中古マンションの部屋だったからです。

中古マンションにインスペクションを入れたとしても、共有部分を個別に調査できるわけではありません。マンションの壁を壊して中を見るわけではありませんし、目に見えない部分の瑕疵は日本もアメリカも変わりはありません。調べられるのはせいぜい、給排水管に不具合があるかどうか程度でしょう。

そのため、この物件に関してはインスペクションをしても意味はない、という不動産屋さんの意見には、私も賛成です。

では、なぜA氏は中古マンション物件に関してもインスペクションにこだわるのか?

それは、日米の瑕疵担保責任に関する考え方が大きく異なることに関係すると思われます。

日米の瑕疵担保責任の違い

瑕疵(かし)担保責任とは、売買された不動産に不具合が見つかった場合、売り手が買い手に負う責任のことを言います。

日本では中古住宅を購入した場合に、通常3ヶ月の瑕疵担保が保証されます。つまり建物の引き渡しから3ヶ月以内に重大な欠点が見つかった場合、売主側の責任として補修を依頼することができるわけです。

そのため、たとえインスペクションを行わなくても3ヶ月以内に物件の故障や不具合が見つかれば、売り主に修繕を要求することができます。

ところがアメリカでは、瑕疵の責任は買い手側にあります。

つまり物件を購入した後に雨漏りが発生しても、シロアリが見つかったとしても、買い手は自分の責任で修繕しなければならないのです。

日米で瑕疵担保責任についてこのような違いがあるため、A氏がインスペクションを要求した気持ちはよく分かります。

ただし、その場合は瑕疵保険をつけるのがマストだと私は思います。

瑕疵保険とは、住宅の瑕疵や欠陥が見つかった場合に、保険会社が補償を行う制度です。瑕疵保険をつければ、インスペクションの保証期間が過ぎた後に見つかった瑕疵についても、しっかり対応することが可能となります。

例えばインスペクションをした結果、中古マンションの給排水に不具合はないと判断された後、3ヶ月が過ぎてから給排水の不具合がおきても、買い主は売り主に責任を問うことができません。しかし瑕疵保険をつけていれば、最長で5年間も物件の瑕疵を保証してくれるのです。

そのため私はA氏に、もしインスペクションをするなら瑕疵保険をつけないと意味がないのでは?と申し上げたのです。

A氏の主張

ところがA氏は、「いやそうではない、日本の不動産屋はおかしい。なぜインスペクションに意味がないと言うのだ。買い主がやりたいというのだから、やればいいのではないか」と主張します。

私は、確かにインスペクションをやりたいならやってもいいけれど、結果としてやる意味がないと言っているのではないですか?と、不動産屋さんの意見を代弁しましたが、A氏は納得しない。

「それも違う。私はインスペクションの結果を見て、買い付けの権利を行使したいのだ」と続けてきたのです。

???

ちょっと、私もよく分からなくなってました。

さらにA氏の話をよくよく聞いてみると、どうやら日本とアメリカの不動産の買い付けに関する考え方の違いが関係しているように思えてきました。

日米の不動産の買い付けの違い

日本における買い付けとは、特定の不動産物件に対する購入の意思表示となります。

買い付けは「買付証明書」を提出することによって行われますが、契約ではないため、後日キャンセルすることも可能です。キャンセル料もかかりません。

しかし買い付けの後にキャンセルすると、大抵の場合はその不動産屋さんや売主さんから物件を紹介してもらえなくなりますから、よほどのことがなければ購入する流れになるでしょう。

アメリカでも同じように、気に入った物件が見つかったら買い付けによって購入の意思表示を行います。

ところが、その際には買い手の方から売り主に対して、これこれの条件が揃わないと買いませんよ、というリストを渡すそうです。

つまり買い付けは単なる購入の意思表示ではなく、正式な契約締結の前の仮契約のようなものなんですね。

これこれの条件が揃えば、私はこの物件を購入します。しかしそうでなければキャンセルしますよ。という、買い手としての権利行使の機会でもあるわけです。

日本では基本的に、購入意思のない物件に対して買い付けを行うことはありません。

購入意思がほぼ固まった状態で、買い付けを行います。

ところがアメリカでは、購入するかどうかは希望した条件が叶うかどうかにかかっています。’

A氏が今回インスペクションにこだわったのも、自分の主張をはっきり示した上で権利を行使するというアメリカ式の不動産購入の考え方が染み付いているからなのでしょう。

日米の不動産取引が異なる原因とは?

今回のA氏との会話で明らかになった、日米の不動産取引の違いをまとめてみましょう。

<インスペクション>

  • 日本:戸建住宅が中心で、まだまだ一般的ではない
  • アメリカ:インスペクションを行うのが常識

<瑕疵担保責任>

  • 日本:売り手に責任がある
  • アメリカ:買い手に責任がある

<買い付け>

  • 日本:購入することが大前提
  • アメリカ:買い手が示した条件が揃わなければ、キャンセルとなる

他にも例えば、仲介手数料についてもアメリカでは売り手が6%を支払うが、日本では売り手と買い手がそれぞれ3%ずつというような違いは色々とありますが、どうしてこんなにも日米で不動産取り引きに違いが生じるのでしょうか?

私はやはり、国民性の違いが大きな原因であるように思います。

アメリカはとにかく契約社会。

買い付けを入れる際にも口頭だけではなく、しっかりと自分の希望を書面に記します。

様々な人種の人々が一緒に生活するアメリカでは文化背景や考え方もそれぞれ異なるため、契約によって双方の合意をしっかりとした形にすることが何より大切となります。

日本のように「空気を読む」といったことを相手に期待することもできないため、それぞれが自分の意見と権利をしっかりと主張する。その上で、折り合いを見つけていくわけです。

でも、どうしても折り合わなかったら?

その場合は、キャンセルとなるだけ。お互いに意見も権利も主張した後ですから、キャンセルになっても後腐れは残りません。条件が合わなかっただけの話ですね。

日本人は相手の顔色を伺うことに長けていますから(善し悪しは別として)、相手が自分のことを騙すという考え方はあまりしない。買い付けにしても一度購入意思を示した以上、よほどのことがない限り購入します。

基本的に性善説にたつのが、日本とも言えるでしょう。

瑕疵担保責任についても売り手に責任があるため、なにか誤魔化して売るようなことはしないでしょう、という前提で取り引きを行います。

一方でアメリカは性悪説。人種も文化も異なる相手を信用するのではなく、自分の身は自分で守るという考え方が基本になっています。

そのため買い付けに関しても相手に任せるのではなくて、自分の希望をハッキリ示す。それが自分の権利だという考え方です。

不動産の瑕疵も買い手の責任になりますから、売り手が問題を隠すこともあるかもしれないと考える。そのため、インスペクションも必須となるわけです。

どちらが良い、悪いというわけではなく、国民性や基本的な考え方の違いが、不動産取引の違いとしても表れているのではないでしょうか。

日本の不動産エージェントが目指す方向性とは?

普段アメリカで活動しているA氏にとって、日本の不動産屋さんとのやり取りは非常にストレスが溜まるものだったようです。

A氏いわく、日本の不動産屋はマンションの管理規約等の必要な情報をこちらが要求しないと出さない。買い手は買うか買わないかを決める権利があるので、全ての情報を始めから開示すべき。その点が本当になっていないとのこと。

また不動産エージェントの本場であるアメリカで活躍しているA氏の目からすると、日本の不動産は顧客に寄り添うことをしない、顧客の権利も守ろうとしないというふうに映るそうです。

情報開示しかり、インスペクションに意味はないと言ったりするのも、そこに原因があると思うわけですね。

ではもしあなたが、A氏のような顧客を持つとしたら、どうしますか?

最近は日本の不動産を購入する海外の方が本当に増えてきました。

A氏のように権利を主張する海外のお客様を「面倒くさい客だ!」と切って捨てるのではなく、国民性や風土の違いゆえに、不動産取引に対する考え方がそもそも異なるのだ、という点を理解しておくなら、そうした人たちにも寄り添う営業ができるかもしれません。

自分の考え方とは異なる人と相対したときに、その人を拒絶するのではなく、どうしてそのような考え方をするのか?という点に思いを馳せることは、今回のような件に限らず、不動産エージェントとしてもとても大切なことだと思います。

また一方で、日本式の不動産取引の習慣や文化も、そんなに悪いものではないのではないか?と感じました。

権利を主張するだけではなく、相手のことも尊重しながら、取り引きを進めていく。相手を信用しつつ、買い付けに関する約束もしっかり守る。相手とのご縁を大切にするという日本人の考え方は、それはそれで素敵なものだと思うのです。

また、必要な情報はあらかじめ全て開示すべきだというA氏の主張はもっともですが、最近はどの不動産屋さんも、よほどのことがない限りは契約書もきっちり作成し、顧客が不安に感じるような取り引きも少なくなってきたのではないでしょうか。

当社も、買い付け前にはもちろん書類は全て提出します。また顧客に目を通す時間がないというのであれば、こちらで問題がないかを確認します。

それでもやっぱり私は、「藤木さんに任せているんだから、資料なんていらないよ!」と言われるくらいのほうが嬉しいですし、そう言われるような信頼されるエージェントを目指したい。きっとそれが、日本式の不動産エージェントなんだろうと思うのです

円安の影響もあり、最近ますます外国の方が日本の不動産を購入するようになっています。

国が何かしらの規制をかけない限り、相対的に安い日本の不動産が外国人に買われる流れはとどまりそうにありません。

もちろん、外国の方が日本の不動産を購入すること自体が悪いわけではありません。

しかし日本人、外国人に限らず、心無い人が購入した不動産を大事にせず、その街に暮らす方の気持ちにも寄り添わないような扱いをするのは心が痛みます。

そのため、やはり我々不動産エージェントがしっかりと顧客に寄り添い、彼らの幸せを実現するような物件を紹介することが大切なのではないでしょうか。そんな物件を蔑ろにする人なんて、いませんよね。

そしてその顧客が外国の方であるならば、不動産取引に関する考え方の違いを考慮に入れながら、双方にとって気持ちの良い取り引きになるよう、エージェントが気を配るべきでしょう。

どこの国の方が購入するにしても、不動産を大事に扱ってくれるような方に買っていただけるように、我々不動産エージェントも努力していきたいものですね。





この記事を書いた人

不動産エージェント 藤木 賀子

スタイルオブ東京(株)代表。
25歳で建築業界に入り、住宅・店舗・事務所・外構の営業・設計から施工まですべてを経験。
世界の建築に興味があり、アジア・北米を中心に建築を見て回り、いい家を追求すべく世界の家を研究。結果、いい家とは『お客様の価値観』にあることに気づき、自分が作るよりお客様の代理人としてお客様の想いを可視化・具現化・実現化することが出来る不動産プロデュースの道に。
これまでの経験とスキルを、不動産エージェントとして活躍したい人に向けて発信中。






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