大手は本当に安心?顧客が知らない「大手不動産仲介会社」の冷たさ

不動産の賃貸や売買などの取り引きを希望するとき、大手の不動産仲介会社を頼る人は多いですね。

確かに、大手不動産仲介会社には多くのメリットが存在します。

例えば…

  • 取り扱い件数の多さ
  • 営業マンの対応レベルが安定している
  • 諸費用や査定方法が一定で安心できる
  • 引っ越しやリフォーム、FPなどの多様な紹介サービス

などなど、ざっと挙げただけでも多くのメリットがあることが分かります。

特に不動産取引に不慣れな人ほど、大手のブランド力は魅力的に映るに違いありません。

でも、本当に大手は安心できるのでしょうか?大手不動産仲介会社が謳う様々な手厚いサービスは、本当に顧客にとってためになるものなのでしょうか?

今回はそうした大手不動産仲介会社のサービスの実体に迫るために、最近私が実際に遭遇した住宅ローンサービスの件から考えてみたいと思います。

依頼人A様のケース

今回相談を受けたA様は、8年前に大田区にある築古のマンションを購入。家族が増えたために、買い替えを検討しておられました。

ネットで見つけた近所の築浅の中古マンションの部屋を内見し、購入を決意。そこは人気の物件ですぐに売れてしまうことが予想されたため、A様はすぐに購入の手続きに入られました。

<A様のマンション購入資金状況>
  • 購入希望マンション価格:4,580万円
  • 諸経費:360万円
  • リフォーム費用:600万円
  • 現在のマンションの残債:2,540万円
  • 現在のマンションの評価額:2,750万円
  • 手持ち現金:100万円
  • 年収:820万円
  • 借入希望額:5,500万円

A様が手付金として用意できる現金が100万円だけだったのが、最初の懸念事項。

というのも中古物件を購入する場合は、契約時に手付金として売買価格の約5%を支払うことが求められるからです。今回の物件では、約230万円となりますね。

本来なら100万円ではとても足りないのですが、売買元である大手不動産仲介会社のN社が売り主に交渉し、100万円で構わないということになりました。この辺りの事情はもしかすると、N社の両手仲介だったということも関係しているかもしれません。

次の問題が、住宅ローンです。

現在お住まいのマンションの残債は2,540万円で、事前に査定を受けた評価額は2,750万円となっています。

A様は日本の有名上場企業で長らく働いていることもあり、個人属性としては五つ星。そのため通常であれば、マンションの購入価格+諸経費+リフォームの合計買金額5,500万円を借り入れることは決して難しくはありません。

しかし今回のケースでは、既存のマンションの残債が2,540万円ほどあります。マンションは売却する予定ではありますが、ローン残債がある中で新たな借り入れができるかが焦点でした。

N社の担当者が都市銀三行にお願いした事前審査の結果が、以下の通り。

  • りそな銀行:金利0.47%。既往ローンの完済が条件
  • 三菱UFJ銀行:金利0.475%。既往ローンの完済が条件
  • 三井住友銀行:金利0.725%。居住マンションの売却をN社が仲介することが条件

りそな銀行と三菱UFJ銀行の金利は妥当なものですが、既存ローンの完済が条件として出されました。

A様は新規マンションを購入後にリフォームした上で引っ越し、その後に既存のマンションを売却することを希望しておられます。

しかしこの条件ではまずご自宅のマンションを売却して、既存ローンを完済しなければなりません。そうすると当然ですが、一度ほかの賃貸物件に引っ越さなければなりません。

これはなかなかに厳しい。

というよりも、ほぼ不可能に近いです。

なぜなら今から自宅を売り出す準備をしたとしても、すぐにマンションが売れるかも分からない。リフォームも計画していますから、これではいつ新居に入れるか分からないのです。

そのことはN社の担当者も良く分かっているため、三井住友銀行が提示した条件を勧めてきたそうです。

しかしこれも、A様にとっては喜ばしいものではありませんでした。

というのも購入希望のマンションの決済を契約から3ヶ月としても、自宅の売却をそれまでに完了させるには、業者に買い取ってもらうしかないのです。

買取業者としては当然、購入後に再度販売するわけですから、相場よりも安く買い叩かれることになってしまいます。

その上、金利も他社よりも高い。

A様にとっては、まるでメリットがありません。

しかし、N社の担当者はその条件での借り入れしか他に方法は無いという。

A様が購入を希望されているマンションは、引き合いの多い物件です。N社としてはA様が購入できなくても、他にいくらでも買い手はいると踏んでいるのでしょう。そのため、これ以上余計な手間はかけたくない。

会社としては、もしかすると当然の対応なのかもしれません。

大手なので、多くの顧客を抱えている。一人の顧客に余分な時間やコストはかけられないというわけです。

しかし、これが本当に顧客本位の提案と言えるでしょうか?

A様はその後、私のもとに相談に訪れました。

どうしてもそのマンションを購入したい。でも、良い条件で住宅ローンが引き出せない。なんとかならないか?というわけです。

A様の個人属性は五つ星ですから、他にも相談できる金融機関はたくさんあります。

そこで私は地方銀行を含めたいくつかの銀行に、住宅ローンの審査をお願いしました。

その結果、静岡銀行さんが以下の条件を提示してくれました。

<静岡銀行の住宅ローン審査結果>
  • 金利:0.47%
  • 条件:現自宅に順位2位抵当権設定。現自宅売却後、既往ローン完済確認資料の提示

先にマンションを購入し、引っ越し後に現住宅を売却するという条件で住宅ローンの審査が下りました。さらに、金利も妥当。まさにA様が希望される通りの条件です。

結果、A様は無事に希望されていたマンションを購入することができました。

では今回の事例から、不動産エージェントとしてどんな教訓が引き出せるでしょうか?

それは、大手不動産仲介会社のメリットは個人の不動産エージェントでも覆すことができる、ということです。

不動産エージェントが大手に対抗するには?

ではもう一度、多くの人が感じる大手のメリットを振り返ってみましょう。

<大手不動産仲介会社のメリット>

  • 取り扱い件数の多さ
  • 営業マンの対応レベルが安定している
  • 諸費用や査定方法が一定で安心できる
  • 引っ越しやリフォーム、FPなどの多様な紹介サービス

このように大手のメリットを挙げていくと、とても不動産エージェント個人としては太刀打ちできない、と感じてしまうかもしれません。

しかし、決してそうではないのです。

一つ一つ考えていきましょう。

  • 取り扱い件数の多さ

大手不動産仲介会社が多くの物件を抱えているといっても、それらはほとんど全てREINSに登録されている物件です。そのため、不動産エージェントとしても同じ情報にアクセス可能。つまり、REINSに登録されている物件を扱う限り、大手も個人も全く関係ないのです。

  • 営業マンの対応レベルが安定している

大手は、新人教育に確かに時間もお金もかけています。そして皆、不動産の営業マンとしてある程度の水準にあることは間違いありません。

しかし実は今、不動産業界は空前絶後の人手不足。どの営業マンもキャパオーバーの顧客と案件を抱えており、クライアント一人ひとりに丁寧な対応をする余裕なんかとてもありません。それに加えて「できる」営業マンほど独立したり、他業界に転職したりしていますから、業界全体で見ると営業マンの接客レベルが確実に下がってきていることを肌で感じます。私も実際に不動産会社の教育プログラムに講師として招かれることもあるのですが、中にはビックリするような人たちにお会いすることも少なくない。

何が言いたいかというと、大手不動産仲介会社の営業マン全てが秀でているというわけではないのです。むしろ、自己研鑽を積む不動産エージェントの方がやる気も、接客態度も優れていることが多い。

大手の看板を背負っていてもそうでなくても、営業・接客は結局は人と人のやり取りですから、その点で引け目に感じる必要は全く無いのです。

  • 諸費用や査定方法が一定で安心できる

確かに大手は営業マニュアルもしっかりしており、一通りの営業をみな無難にこなせるでしょう。

しかし、A様の例からも分かる通り、マニュアルの範囲内の対応しかできないという人がほとんど。営業マン個人に裁量権がないため仕方がない部分もあるのですが、目の前のお客様のために本当に最善を尽くしているかどうかは非常に疑わしい。

諸費用や査定方法が一定で安心できるということは、裏を返せばそれ以上の対応や提案を期待することはできない、ということでもあるのです。

  • 引っ越しやリフォーム、FPなどの多様な紹介サービス

不動産エージェントがこの点で大手の営業マンを上回れるかどうかは、それこそ本人次第です。

宅建士の資格だけではなく、宅地建物取引のエキスパートであることを証明する「宅建マイスター」や、不動産総合業務のプロフェッショナルと言える「不動産コンサルティングマスター」などの資格を有している不動産エージェントも実際にいらっしゃいます。

もちろんそうした資格だけではなく、金融取引やリフォームなどの知識と実績を積んでいくなら、個人でも大手に十分に対抗できるのです。

まとめ

確かに不動産取引において大手にお願いするのは、多くのメリットがあります。

しかし実際の対応をよくよく調べてみると、そうしたメリットは本当の意味で顧客のためにならないばかりか、冷たい対応に不満を感じている人も多くいらっしゃるのです。

不動産エージェントは顧客一人ひとりに寄り添って、彼らのためにできることなら何でも行うのが本分。

不動産という大きな買い物の時だからこそ、お客様はプロの助けを本当に必要としています。

彼らの代理人、そして不動産取引のプロとして、私たち不動産エージェントは購入に関わる様々な手続きやサービスを全面的にサポートできるよう、常にアップデートしていきたいものですね。






この記事を書いた人

不動産エージェント 藤木 賀子

スタイルオブ東京(株)代表。
25歳で建築業界に入り、住宅・店舗・事務所・外構の営業・設計から施工まですべてを経験。
世界の建築に興味があり、アジア・北米を中心に建築を見て回り、いい家を追求すべく世界の家を研究。結果、いい家とは『お客様の価値観』にあることに気づき、自分が作るよりお客様の代理人としてお客様の想いを可視化・具現化・実現化することが出来る不動産プロデュースの道に。
これまでの経験とスキルを、不動産エージェントとして活躍したい人に向けて発信中。






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