不動産エージェントは「物件の囲い込み」をどう見るべきか?

実際の事例を元に考察します!

最近はだいぶ減ってきたように感じますが、まだまだ不動産業界に根強く残る「物件の囲い込み」。

今回はそんな物件の囲い込みを、不動産エージェントとしてどう捉えたら良いのか?私が実際に遭遇した事例を元に考えていきたいと思います。

不動産業界の悪しき習慣「物件の囲い込みとは」?

不動産業者は顧客から物件の売却を依頼されたとき、広く一般に公開して買い主を募るのが一般的です。

しかしそうではなく、預かった物件を他の不動産業者に紹介しないことを「物件の囲い込み」、もしくは「物件隠し」と言います。

不動産業者としては買い手を広く募った方が早く物件が売れるにも関わらず、物件を囲い込むのはどうしてでしょうか?

それは、「手数料の両手取り」を狙っているからです。

不動産の売買の際には、売り主と買い主の双方から手数料を頂戴することができます。

物件を抱えている不動産業者が他社から声をかけられてその物件を販売した場合(これを片手仲介と言います)、いただける販売手数料は売り主側からのみ。買い手の分の手数料は声をかけてきた他社に渡ります。

ところが不動産業者自身が買い手も見つけると、売り主分と買い主分の両方の手数料をいただけることになります(これを両手仲介と言います)。

物件の売却価格が1,000万円だとすると、片手仲介の場合の手数料は36万円、ところが売り主も買い主も自分で見つける両手仲介の場合は、手数料が倍の72万円となります。

不動産売買の際の手数料は「成約価格×3%+6万円(取引額が400万円を超える場合)」と定められていますから、一軒の物件でより多くの手数料を手にするために、物件を囲い込もうとするわけです。

勘違いしていただきたくないのですが、両手仲介自体が悪いのではありません。片手仲介にも両手仲介にもそれぞれメリット・デメリットがあり、販売方法が異なるにすぎません。

ただし、最初から両手仲介「だけ」を狙っている場合、どうしても手持ちの物件を他社に紹介することを控えるようになってしまいます(当然ですよね)。これによって、「物件の囲い込み」が生じるわけです。

売り主がその不動産会社を信頼していて、物件の囲い込みを了承しているのであれば、全く問題はありません。

しかし一般的には広く買い主を募ったほうがより早く、より高く物件を販売できると考えるのではないでしょうか?

そのため物件の囲い込みは、不動産業界に古くから残る悪しき習慣の一つと捉えられているのです。

物件の囲い込みは法的にはどうなのか?

物件の囲い込みは顧客のためではなく、あくまで不動産業者が自社の利益を高めるために行う行為です。

ではこの物件の囲い込みは、法的にはどのように見なされているのでしょうか?

ある人が自分の不動産物件の売却を不動産会社に依頼する場合、その売り方を次の3つの中から選ぶことができます。

  • 一般媒介契約:複数の不動産会社に仲介を依頼できるし、自分で購入者を見つけることも可能
  • 専任媒介契約:依頼できる不動産会社は一社のみだが、自分で購入者を見つけることも可能
  • 専属媒介契約:依頼できる不動産会社は一社のみで、自分で購入者を見つけることもできない

ここで大切なのは、どの売り方にするかを決めるのは売り主自身だということです。

売り主からすると、買い主を見つけられる可能性の高い一般媒介契約の方が良いように思えます。しかし一つの物件を複数の不動産会社が扱うと自社の営業活動が無駄になってしまう可能性があるため(他社が販売した場合はタダ働きになってしまいます)、不動産会社側は様々な特典を用意して専任もしくは専属媒介契約にしてくれるように誘導します。

そしてこの販売方法の違いは、同時にレインズへの登録方法の違いでもあります。

<レインズとは>

レインズ(REINS)は「Real Estate Information Network System」の略で、国土交通大臣が指定する不動産流通機構のことです。

不動産物件をレインズに登録すると、全国の不動産会社がその物件情報にアクセスできるようになります。そのため不動産売買には欠かせない、非常に重要なシステムとなっています。

専任売約契約ならびに専属売約契約を結んだ場合には、委託された物件をレインズに登録することが法律で義務づけられています(宅建業法第34条の2、第5項)。

  • 一般媒介契約:レインズへの登録義務なし
  • 専任媒介契約:7日以内に登録しなければならない
  • 専属媒介契約:5日以内に登録しなければならない

不動産会社が顧客と専任もしくは専属媒介契約を結んだにも関わらず、物件を囲い込むためにレインズへの登録を怠ることは、明確な宅建業法違反となります。

しかしレインズに登録した上で、物件を隠した場合はどうでしょうか?

例えば、レインズで物件を見つけた業者が不動産会社に連絡する。ところが、「担当が席を外しているので対応できかねます」などと、物件への問い合わせを拒否することは可能なわけです。そしてそうした場合、物件隠しを証明することは非常に難しい。物件の囲い込みのグレーゾーンと言われている部分です。

アメリカの場合、レインズに相当するMLS(Multiple Listing Service)と呼ばれるシステムが存在します。

このMLSには新築時の価格や、どのタイミングでリフォームされたのかなど、レインズよりもさらに広範囲な物件情報が収められています。このMLSにアクセスできないと死活問題となるため、エージェント同士が互いに監視し合い、それによって透明性が担保される仕組みとなっています。

ところが日本では物件隠しを証明することが非常に難しいため、いまだに物件の囲い込みが根強く残っているという実情があるのです。

実際に遭遇した物件の囲い込み2つの事例

では不動産売買の現場では、不動産の囲い込みがどのように行われているでしょうか?

私が実際に遭遇した2つの事例をご紹介します。

【グレーゾーンのケース】

最初に紹介するのは物件の囲い込みが疑われるが、その証明が難かしい、いわゆるグレーゾーンの案件です。

某月の2日、以前に物件を紹介したことのあるお客様から、子どもが生まれるので同じエリア内でもっと広い物件に引っ越したい。自分ですでに気になる物件を見つけてあるので、相談に乗ってほしいというお話がありました。

その物件は大手の不動産会社が扱っている物件で、その会社のサイトには確かに物件情報がのせられています。しかし、レインズには登録されていませんでした。

あれ、おかしいな。と思いつつ、改めて6日にレインズを確認してみると、今度は物件がしっかりと登録されていました。

最初にレインズで確認したのが2日、それから4日目ですから、宅建業法違反にはあたりません。

内見の後、お客様は気に入られたのでぜひ購入したいとのこと。ローンの審査が必要なため、先にネット銀行で住宅ローンを申し込むように説明しました(ネット銀行での住宅ローンの申し込みについては、「住宅ローンもネット銀行がお得!?エージェントのための最新トレンド分析」もぜひご覧ください)。

住宅ローンの審査も無事におり、売り主とも話が進んで合意に至ったため、一番手で買い付けを入れることができました。

…と、ここまでは非常にスムーズだったのですが、不動産会社の営業マンの対応があまり良くない。

一番手で買い付けを入れたにも関わらず、ほかにも申し込んでいる人がいるので、少し待ってほしいというのです。

しかし、いくら待っても連絡が来ない。お客様も子どもが生まれる前に入居したいので、次第に焦ってこられます。私もいい加減しびれを切らして、営業マンに強く申し入れを行いました。そうすると、最終的な決定権は売り主にあるので、そちらにアピールしてほしいと言う。そのことをお客様に伝えたら、手書きで書いた手紙を送っていただけることになりました。その手紙の内容が素晴らしかったこともあり、売り主さんもぜひ購入してほしいということで、無事に契約成立となったのです。

このケースの場合、明らかな法令違反と言えるものはありません。物件情報はレインズにしっかり登録されていますし、最終的には満額で売却できているわけですから、売り主に不利益をもたらしているわけでもありません。

でも、どうでしょうか。こちらが買い付けを入れた後に、ほかにも購入希望者がいたというのは本当でしょうか?私には分かりません。本当のことを知っているのは、その営業マンだけだからです。売り主さえも、実際のところをご存知ではありませんでした。

大手の不動産会社の場合、買い手を広く募らなくても自社の付き合いの範囲内だけで物件を販売することは決して難しくはありません。今のような売り手市場ではなおさら。もし実際に物件の囲い込みをしていたとしても、売り主の希望額で売約できるのであれば問題はない、と考えることさえできるかもしれません。

しかし、私は思うのです。不動産取引で大切なのは「縁」だと。

売り主はなるべくいい人に買ってもらいたい。買い主も、もちろん良い売り主から物件を買いたいと願っています。その人と人のご縁の橋渡しをするのが私たちの役割りなのに、それを阻むようなことがあって良いのでしょうか?

不動産エージェントにとっても、考えさせられる事例と言えるでしょう。

【明らからな法令違反のケース】

時には、明らかな法令違反と言える物件の囲い込みに遭遇することもあります。

その一つの事例を紹介しましょう。

私の仕事仲間の一人である不動産エージェントが、顧客の依頼を受けて土地を探していました。東京都下に希望通りの土地が見つかり、調べてみると地元で長く続く老舗の不動産屋さんが預かっている土地であることがわかりました。

その不動産会社のホームページには土地の情報がのせられており、「専任媒介」とも書いてありますが、レインズには登録されていません。

エージェントはいぶかしながらも、業者に電話でコンタクトを取りました。始めはいい感じで話が進んでいたのですが、途中でこちらが個人の購入希望者ではなく、不動産エージェントであることが分かると、「その土地は売れません」と態度を豹変させてきたのです。

「御社のホームページでも専任媒介として公開されていますよね?」と尋ねると、なんとガチャ切り。

こうなると、こちらはもうお手上げです。専任媒介ですから、その業者を通さなければ土地を購入することはできません。

顧客に事の次第を伝えて、ご自身でその不動産会社と交渉するように提案しました。不動産会社も間に不動産エージェントという「業者」が介入しなければ仲介手数料の両手取りができるため、問題なく交渉に応じてくれるはずです。しかし、顧客はそんな不動産屋は信用できないので、間に入ってほしいという。その気持もよく分かりますよね。

このケースは専任媒介となっているにも関わらずレインズに登録していないため、明らかな宅建業法違反となります。そんな業者を信頼できない、というのも当然の反応です。

とはいえこの不動産屋さんにしても、お客を騙そうという意図はないかもしれません。東京都下とはいえ地方の小さな不動産屋さんですから、昔からの慣習である物件の囲い込みをそれほど悪いことだと認識していないのかもしれません。また老舗なので、レインズに登録しなくても買い手は地元で見つかるのでしょう。

でもそれならば、専任媒介にしなければ良いだけの話です。一般媒介ならレインズへの登録義務もありませんし、老舗の看板で他所にお客を取られることもないでしょう。良く分かりませんが…。

このケースで一つはっきりと言えることは、売り主は別にしても、買い手側の利益が著しく損なわれてしまっているということです。

顧客が不動産エージェントに相談するのは、物件に関して公平で正しいアドバイスが欲しいからです。こちらとしてもお客様の立場になって物件を調査し、力になりたいと願っています。ところが物件の囲い込みをされてしまうと、手助けをするのが難しい。成約時の手数料がエージェントへの報酬となるわけですが、手数料の両手取りを狙っている不動産会社に物件を囲い込まれてしまうと、こちらとしては何もできなくなってしまうのです。なにしろ向こうは、他の業者が間に入ることを拒否しているわけですから…。

もちろん、顧客が手数料とは別にエージェントへの報酬を用意するなら話は別ですが、それでは余分なコストを強いられてしまいます。

ですから顧客の利益を第一に考える不動産会社なら、物件の囲い込みを選択肢とすることはないはずなのです。

不動産エージェントに求められるモラル・行動とは

今回は法的な視点や実際の事例を元に、物件の囲い込みについて考えてみました。

私は何も、物件の囲い込みは悪だ!と声高に言うつもりはありません。

しかし、公平性やプライアンスが重要視される今の時代にあって、物件の囲い込みについてもこれからますます厳しい目が注がれるようになることは間違いないでしょう。

売り手市場の今の不動産業界において、大手が物件を囲い込んでしまうと、それだけで市場が萎縮してしまいます。また買い手が適切なアドバイスを求めようにも、物件隠しをされてしまうとエージェントにできることも限られてしまうのです。

売り主も買い主も、正しい情報に触れることができないのは非常に大きな機会損失であり、不安の原因ともなるのではないでしょうか。

情報は力。

それだけに、その力を誰のために使うのか?というモラルが問われているのです。

不動産エージェントとして物件の囲い込みを一つの教訓とし、これからも高いモラルを伴った営業活動を行っていきたいものですね。






この記事を書いた人

不動産エージェント 藤木 賀子

スタイルオブ東京(株)代表。
25歳で建築業界に入り、住宅・店舗・事務所・外構の営業・設計から施工まですべてを経験。
世界の建築に興味があり、アジア・北米を中心に建築を見て回り、いい家を追求すべく世界の家を研究。結果、いい家とは『お客様の価値観』にあることに気づき、自分が作るよりお客様の代理人としてお客様の想いを可視化・具現化・実現化することが出来る不動産プロデュースの道に。
これまでの経験とスキルを、不動産エージェントとして活躍したい人に向けて発信中。






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